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書評:竹倉史人「輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語」

さて

長女が生まれたとき、「この子は去年死んだおじいちゃんの生まれ変わりだ」と妻が言った。理性派でふだん迷信めいた事は言わない彼女がそのような事を言ったことが自分には驚きだった。

竹倉史人氏の輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語 (講談社現代新書)で紹介されているデータによれば、日本人の42.6%が「 輪廻転生はあると思う」と回答しているとのこと。

輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語 (講談社現代新書)

輪廻転生 〈私〉をつなぐ生まれ変わりの物語 (講談社現代新書)

著者によれば、「輪廻転生」あるいは「生まれ変わり」は東洋のみならず「グローバルに広がる非常に普遍性の高い考え方である」。グローバルに信じられている「輪廻転生」の概念にはしかし地域の民俗文化や土着宗教によって様々な類型があり、著者はそれを以下の3類型にまず分類して見せる。

すなわち、

  1. 再生型
  2. 輪廻型
  3. リインカネーション型

である。

1. 再生型

〈再生型〉は世界中の民俗文化においてみられるものです。(中略)こうした小規模社会に見られる生まれ変わりの最大の特徴は、転生先が自分の家族や親族に限定されている点です。

  • 「輪廻転生」 23pより

私の妻の言う「生まれ変わり」はこの「再生型」に相当するものと思われる。

筆者は〈再生型〉の生まれ変わりとして、西アフリカのイグボ族やアラスカのトリンギット族の事例を挙げている。それらの部族では、様々な呪術や供養の儀礼をもって死者を再びこの世に転生させようとする。

〈再生型〉の生まれ変わりは、自律的な「自然法則」によって起こるものではなく、儀礼や呪術を会して人間が神霊に取り入ることで起こります。また、こうした再生は地縁・血縁を基盤として成立しており、死者が自分の家族の子孫として転生する〈同族内転生〉はという点も特徴的です。

  • 「輪廻転生」 55pより

2. 輪廻型

〈輪廻型〉はインドに起源をもつ思想で、ウパニシャッド、仏教、ジャイナ教、ヒンドゥー教などに代表されるものです。世界外への超越という現世否定的な観念と、業(カルマ)とよばれる因果応報の原理(=自律的法則)が見られる点に特徴があります。

  • 「輪廻転生」 23pより

個人的には〈輪廻型〉が一番馴染の深い考え方になる。

〈輪廻型〉のキーワードは「流転」です。もはや来世にどこに生まれ変わるか分かりません。〈再生型〉において中心的な役割を果たしていた地縁・血縁の原理は、より抽象性の高い「カルマの法則」のなかに包摂されることになります。

  • 「輪廻転生」 58pより

筆者は古代インドにおける輪廻思想の発祥から、ブッダによる五蘊説に至るまでの道程を詳述してみせる。正直この〈輪廻型〉については本作の中でも最も難解な部分ではあるが、筆者の丁寧な説明によってなんとか理解できたと思う。

ブッダは、この〈五蘊〉という概念をもって人間存在を分析してみせました。すなわち人間は5つの構成要素—〈色〉〈受〉〈想〉〈行〉〈識〉—の集まりだというのです。(中略) ブッダは、われわれが〈私〉だと思っているものは、じつはこの5つの構成要素の集積にすぎない、と言ったのです。

  • 「輪廻転生」 84pより

とくにこの章の最後で著者が語る「五蘊が輪廻するイメージ」についての寓話は素晴らしいので是非ご一読頂きたい。

3. リインカネーション型

〈リインカネーション型〉は近代版生まれ変わり思想ともいうべきものです。リインカネーションの思想自体は19世紀のフランスで生まれました。当時、一世を風靡していた心霊主義と社会進化論の影響を強く受け、「霊魂の進化」がとりわけ強調されます。

  • 「輪廻転生」 23pより

リインカネーション(reincarnation)は、フランスの教育学者アラン・カルデックの造語であるとのこと。彼が「交霊実験」(こっくりさんのようなもの)の中でであったゼファー(Zephyr)と名乗る霊との対話を記録し出版した「霊の書」の中にリインカネーションの思想が萌芽したという。

〈霊〉:新たに生まれ変わるたび、霊は進歩の道を一歩ずつ前進する。そして一切の汚れをふり払った時、かれはもはや肉体の試練を受ける必要がなくなる。

〈進歩〉はリインカネーション思想の中核をなす観念です。われわれの霊魂は循環するのでもなければ、流転するのでもありません。われわれの霊魂は進歩するのです。

  • 「輪廻転生」 114pより

カルデックが紹介したリインカネーションの思想はその後 世界中に拡散し、今なおニューエイジ運動やスピリチュアル文化において語られているのである。

ゼロックスによる輪廻転生研究助成

次いで本書の第4章では、前世の記憶を持つ子供たちの調査研究を進めているヴァージニア大学医学部のDOPS(The Division of Perceptual Studies)を紹介している。

飽くまで科学的・学術的に前世の記憶を持つ子供たちを調査していて、学術的価値の高い研究成果を挙げているとのこと。

興味深かったエピソードは、同研究所の設立者であるイアン・スティーヴンソンに対して、ゼロックスコピーの発明者のチェスター・カールソンが資金援助をしていたと言うお話。コピー機で稼いだ金で生まれ変わりの研究が為されるってのがなんとも象徴的。

ビートルズのレコードの売上げでCTスキャンが開発されたと言うエピソードを思い出したり。

日本における生まれ変わり

第5章では、日本における生まれ変わりについて論じられている。日本には、輪廻転生の3類型の全てが見られるとのこと。

日本では〈再生型〉〈輪廻型〉〈リインカネーション型〉の3つの因子が相互に干渉しながら独特の再生観念をつくりあげています。これは今後の日本人の死生観や葬送儀礼にも少なからぬ影響を与え続けていくことになるでしょう。

  • 「輪廻転生」 203pより

輪廻転生思想を描いた小説「暁の寺」

ここから先は余談。

これは本書とは無関係であるが、高校生の頃三島由紀夫に熱中して彼の著作を多く読んだ。彼の代表作のひとつで遺作にもなった「豊饒の海」四部作はまさに「輪廻転生」を重要なモチーフとした作品だ。

第1巻の「春の雪」は妻夫木聡の主演で映画化もされたのでご存知の方も多いと思う。

春の雪 [DVD]

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4部作では、主人公が次々と死んでは転生していき、それを傍観者として第一作の主人公松枝清顕の親友である本多繁邦が見守り続ける。しかし第4巻の最後で、それらの生まれ変わりは全て否定され、まったき虚無が本多を襲う。恐ろしい小説だ。

4部作の中でも最も難解なのが第3巻の「暁の寺」。仏教における輪廻転生の理論を阿頼耶識とか末那識とか聞いたこともない用語を使って延々数十頁にわたって語り続ける部分がある。

暁の寺―豊饒の海・第三巻 (新潮文庫)

暁の寺―豊饒の海・第三巻 (新潮文庫)

これを読んだ当時は、正直全く分からないで読んでいたはずなのだが、それでも青年期特有の肥大した自尊心から分かったつもりでいたのだと思う。

竹倉氏の著書を読んで、久しぶりに「豊饒の海」を読み返してみようかなと思ったのだった(今読んでも難解なままなのだろうが)。

では