書評:ピエール・ルメートル「悲しみのイレーヌ」/「その女アレックス」のprequelとして。

f:id:iGCN:20160204095647j:plain


さて

昨年「その女アレックス(以下アレックスとす)」がバカ売れしたフランスの作家ピエール・ルメートルの最新刊「悲しみのイレーヌ」を読んだのでそれについて語る事にしよう。

「アレックス」についてはこちら↓
igcn.hateblo.jp

読む順番に注意

「悲しみのイレーヌ」「その女アレックス」と同じくパリを舞台に小男のカミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする物語であるが、注意が必要なのは刊行が前後したが実は「アレックス」の4年前の物語であり、シリーズ第1作となる。ピエール・ルメートルにとっては作家デビュー作。

「アレックス」を既に読んでいる方にとってはある意味結末がネタバレであり、スターウォーズの新三部作(ep.1-3ね)を見ながら「ああ、こんな純朴な少年が後にダークサイドに墜ちるのか」と予定調和のなか観賞するのと同じ気分で読み進める事になる。実際には予定調和を越えた驚きを持った作品なのだが。

しかし、ここで幸いしたのが最近健忘症気味の私の灰色の脳細胞であり、「アレックス」のなかで仄めかされていた4年前の出来事については忘却の彼方だったのでネタバレがないままに読み進める事ができた。

と言うわけで、「アレックス」をまだ未読の方には是非、

「悲しみのイレーヌ」 → 「その女アレックス」

の順で読む事をお勧めしたい。

もう一つ言うと、本作のamazonのレビューはネタバレ全開なので読みに行かない方がよろしい。(リンクを貼っておいてなんだけども)

あらすじ

前置きが長くなったが、本作のあらすじ(ややネタバレ)は

娼婦が二人惨殺され解体され、頭部が部屋の壁に打ち付けられると言う猟奇殺人事件が発生。現場に残された指紋を象ったスタンプから、過去の未解決猟奇殺人事件が浮かび上がってくる。捜査の指揮をとるのは小男のカミーユ・ヴェルーヴェン警部。捜査を進めるうちに、それぞれの猟奇殺人は有名ミステリ小説の殺人現場を模した見立て殺人である事が明らかになり・・・

というお話だ。

ミステリを多く読んでいる人には、見立て殺人のネタはすぐに分かるのかな。

殺人現場の描写は「アレックス」と同様にかなり猟奇的でグロテスクなので合わない人には合わないと思う。自分は大丈夫なんだけども。

そしてこの小説にはもう一つ驚くべき仕掛けが施されているのであるが、それについて語る事自体がネタバレになってしまうので多くは語るまい。自分はその部分を寝る前に寝室で読んでいたのだけど、思わず「うぇっマジか!」と叫んでしまった事だけを記しておく。

ヴェルーヴェン警部シリーズは全5作

デビュー作にしてこれだけの作品を世に送りだしたルメートルの技量には感嘆するしかない。ルメートル氏によるヴェルーヴェン警部シリーズは、本国ではすでに第5作までが出版されている模様。

# 邦題 原題 刊行年(仏) 刊行年(日)
1 悲しみのイレーヌ Travail soigné 2006年 2015年10月
2 その女アレックス Alex 2011年 2014年9月
3 (大きな手段) Les Grands Moyens 2011年
4 (犠牲) Sacrifices 2012年
5 (ロージーとジョン) Rosy & John 2013年

日本ではまだ2巻までしか翻訳されていない。続編の刊行が待ち遠しい。翻訳の橘明美先生と文芸春秋社に期待しています。

では


ヴェルーヴェン警部シリーズではないが、ピエール・ルメートルの近刊を紹介しておく。近々読む予定。

[asin:4151814515:detail]

[asin:4167903563:detail]