衣装ケース閉じこめ死事件:胸腹部圧迫による外傷性窒息について

さて

また痛ましい、許しがたい事故事件が起きてしまった。

自宅で2歳の長男をプラスチック製の衣装ケースに閉じ込めて殺害したとして、11日朝、奈良県生駒市の39歳の父親が逮捕された。

 殺人の疑いで逮捕されたのは、生駒市の会社員・井上祐介容疑者。井上容疑者は10日午後6時前、自宅で長男・幸也ちゃんをプラスチック製の衣装ケースの中に入れてふたをし、死亡させた疑いが持たれている。衣装ケースの大きさは長さ80センチ、幅40センチ、深さ30センチで、その中に幸也ちゃんと3歳の長女の2人を閉じ込めたという。

子供を衣装ケースに閉じこめるなんて想像するだけでも頭おかしい。立派な虐待だと思う。

ニュースによれば死亡した男児には目立った外傷はなく、窒息死と考えられると言うことだった。が、衣装ケースの気密性なんて無いに等しいし、一緒に閉じこめられていた3歳の長女は無事で2歳の長男だけが死亡したと言うのが当初解せなかった。

しばらくあれこれ考えて、合点の行く死因に辿り着いた。

胸腹部圧迫による外傷性窒息

胸腹部圧迫モデルを用いた外傷性窒息症による呼吸不全発症メカニズムの解明

日本医科大学千葉北総病院救命救急センターの本村友一らによる論文。PDFファイルが読めるようになっている。

外傷性窒息とは

「外傷性窒息」とは,機械への挟まれ,階段での将棋倒し,または土砂への埋没などにより,胸部を強く圧迫されることで呼吸および循環が障害され, 呼吸不全による低酸素脳症から死亡に至る外傷形態とされている。*1


2001年に兵庫県明石市の花火大会で発生した歩道橋での群衆事故では,11人が死亡し247人が負傷した。受けた外力に伴う肋骨骨折や胸腹部臓器損傷などの器質的な身体損傷が発生していなかったことから,11人の死因は外傷性窒息と考えられている。胸腹部の圧迫開始から死亡に至るまでには一定時間が経過していることがわかっており,犠牲者たちは時間の経過により胸腹部に受けた圧迫によって呼吸筋疲労が生じ呼吸不全から死亡に至った,と報告されている。*2

胸部を持続的に圧迫されることで、呼吸ができなくなって最終的に窒息死してしまうと言うことらしい。恐ろしい。

成人男性でも77分で呼吸不全に至る

論文では、20歳代の健康成人男性5名を対象に胸腹部に圧力をかけた状態を作り、呼吸数や心拍数などのデータをとった。

その結果、胸腹部への50kgの負荷で77分後、40kgの負荷で87分後、30kgの負荷で126分後に呼吸不全に至ることが推察されたとのこと。

過去の群衆事故による外傷性窒息による犠牲者の大部分を占めたのは未成年者や高齢者であった。小児や高齢者では,本研究の成人男性に比べて呼吸耐性が低いことが考えられ,体重当たり同等の負荷でも比較的早期に呼吸不全や死亡に至る可能性がある と考えられる。したがって,胸郭の伸展性の高い小児においては,成人男性に比べて循環動態の影響がより大きい可能性も予測される。*3

体の小さな子供や、体力の無い老人ではより影響が強いと考えられるとのこと。

今回の事件のケースでも死亡したのは2歳の男の子と言うことで、より影響が大きかったのだろう。ケースに無理やり二人を押し込めて、無理やり蓋を閉めたことで、体に大きな圧力がかかったのだろうと思う。

さいごに

どんな理由であれ子供を虐待するヤツは許しがたい。残された3歳の長女の心のケアをしっかりして欲しいと願う。

では

*1:本村友一et. al. 日救急医会誌 . 2014; 25: 281-7

*2:本村友一et. al. 日救急医会誌 . 2014; 25: 281-7

*3:本村友一et. al. 日救急医会誌 . 2014; 25: 281-7