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Noblesse Oblige 2nd by iGCN

湘南生まれ湘南育ちだけどサーファーではありません。しぞーかじん歴4年。最近アラがとれたアラフォーのおっさんです。サザンオールスターズと加山雄三が好きです。でも横山剣さんの方がもっと好きです。

朝日新聞社瀬川茂子記者はなぜマウスにラーメンを食べさせたのか

さて

2017年1月11日に朝日新聞が報じたこちらの記事。

飲酒後にラーメン食べたくなる理由判明 英でマウス実験:朝日新聞デジタル このエントリーをはてなブックマークに追加

イギリスの研究グループがネイチャーコミュニケーションズに発表した論文を紹介した記事だ。

お酒を飲んだ後、ついラーメンやアイスクリームが食べたくなるのは、アルコールが食欲にかかわる脳の神経細胞を活性化させるためらしい。英フランシス・クリック研究所のグループがマウス実験で突き止め、11日、英科学誌ネイチャーコミュニケーションズ(電子版)に発表する。

実際の実験の内容はと言うと、

グループはマウスにアルコールを与えると、食べる量が約1~2割増えることを確認。アルコールを与えた時のマウスの脳を調べたところ、ふだんは飢えによって食欲が増す時に働く神経細胞が活性化していることがわかった。人為的にこの神経細胞の活動を抑えると、アルコールを与えても食べる量は増えなかった。

マウスが何を食べたのか、こちらの記事からは分からない。英国の研究グループがまさかマウスにラーメンを食べさせたのだろうか。

「アル中患者の週末」実験

記事で紹介されたネイチャーコミュニケーションズの元論文はこちら。

PDFも無料でダウンロードできるので、興味がある方は読んでみるとよいと思う。時間のない方のためにキーとなるFigure 1.を示す。

f:id:iGCN:20170112145340j:plain

‘alcoholic weekend’ experiment、すなわち「アル中患者の週末」と題されたこの実験では、マウスの腹腔内にエタノールを直接注入して食欲の変化を検証している。具体的には3日間連続で毎晩19時にマウスにエタノールを投与、前後3日間ずつは比較対照として同量の生理食塩水を投与し、マウスの餌の摂取量を計測している。投与前(Pre)、投与中(EtOH)、投与後(Post)のそれぞれ3日間の餌の摂取量を比較している。

結果はa.のグラフを見れば一目瞭然で、エタノール投与期間中に餌の摂取量が増えていることが分かる。b.を見るとメスマウスの方が摂取量の増加量が多いように見えるが、統計学的には性差はなし。c.ではエタノールの投与後速やかに餌の摂取量が増え始めることが示されている。

この実験では決してマウスにラーメンやアイスクリームを食べさせたわけではない。

すなわち、

ラーメンを食べたくなる理由を検証するためには、マウスにラーメンを食べさせる実験をしなければならないだろう。すなわち普通の餌とラーメンを並べておいて、エタノールを投与されたマウスがラーメンを好んで食べるようになると言う結果を示す必要がある。

なぜタイトルに「ラーメン」を付け加えたのか

朝日新聞の記事は瀬川茂子記者の署名記事となっている。瀬川記者の肩書きは朝日新聞科学医療部記者。

前節で検証したように、今回の研究論文ではアルコールで食欲が増進することが示されただけで、ラーメンを食べたくなる理由が解明されたわけではない。では瀬川記者はなぜタイトルに「ラーメン」を付け加えてしまったのだろうか?

これは純粋に大衆の耳目を集めるための方策だと思う。「飲酒後にラーメンを食べたくなる」というのは多くの人々が実際に体験して共有していることで、その理由が科学的に明らかにされたとなれば、多くの人がその記事に注目するだろう。実際にはてなブックマークでも400以上のブックマークを集めてホットエントリーとなっていた。

これが「飲酒後に食欲が亢進する理由が判明 英でマウス実験」という、実験内容に忠実なタイトルだったらどうだろう?正直あまり興味をそそられないのではないだろうか。少なくとも自分だったらこの記事を読みたいとは思わない。

科学的正確性と分かりやすさはトレードオフ

昨年12月に「メディカルジャーナリズム勉強会」という会合が開かれたらしい。以下に貼ったレポート記事によれば、昨年末に話題となったいわゆる「WELQ問題」を中心にメディカルジャーナリズムのあり方について議論が行われたようだ。

医療メディアは儲からない? 「正しい情報」が検索で現れない理由 - withnews(ウィズニュース) このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事の中で興味深い発言を読んだので引用したい。

「まじめにやろうとすればするほど、キャッチーさやポップさからは離れていく」

メドレー代表取締役医師の豊田剛一郎氏

ここで討議されたのは医学の話だけど、医学にせよ科学にせよ学術的正確性を保ったまま分かりやすく、かつ注目を集めるような記事を書くのは難しいのだろう。正確性と分かりやすさは、言わばあちらを立てればこちらが立たずのトレードオフの関係だ。

WELQの記事があれだけ検索アクセスを集めたのは、科学的正確性を犠牲にして(素人が書いているからそもそも正確性がないのだが)キャッチーさとポップさを追求したが故だろう。ただ、生命に直結する医学において、正確性を欠いた記事が量産されるのはやはり問題だ。

科学的に正確であろうとした東宝の3博士

話は変わるが映画「シン・ゴジラ」では、未知の巨大不明生物(後にゴジラと命名)が東京湾に出現したことを受け、少しでも情報を得ようと3名の御用学者が首相官邸に呼び出されて意見を聞かれるシーンがある。

この3人の学者たち(東宝の3博士)は口々に自分の専門的視点から不明生物について話すのだが、科学的に誠実であろうとするあまり憶測を一切排したことしか言わないので正直全く何を言っているのか分からない。で、大河内総理が「御用学者では役に立たん」と怒り狂う。

劇場では「科学者使えねー」とばかり客席から失笑が漏れるシーンであるのだが、自分はこのシーンを見ながら「科学者ってこうだよね」という意味でほくそ笑んでいた。科学的に誠実であろうとすればするほど、特にデータが少ない時点では何も言えないのだ。

さいごに

大衆の耳目を集めて検索上位を目指すために科学的正確性を犠牲にしてキャッチーでポップな記事を書くようなことは、天下の公器たる新聞社のサイトがやって良いことではないと思う。

では

関連記事:


P.S. 現実は、酒を飲んだらラーメン食べたくなります。僕は。

https://miil.me/p/9rnrs

呑んだ後の〆のラーメンはサイコー!