ドクター・ストレンジの愛車と腕時計、goofsについて解説する

さて

先日は映画「ドクター・ストレンジ」観賞レビュー記事を書いたが、今日はドクター・ストレンジの愛車、愛用の腕時計、goofsについて語ろうと思う。ちなみにgoofsとは米語で「ヘマ」の意味で、映画における何らかのミスをあげつらう時に使う言葉である。

ネタバレはないので映画を観る前に読んでも問題ないとは思うけど、既に観た方向けの記事。

ドクター・ストレンジの愛車

f:id:iGCN:20170131081853j:plain ランボルギーニウラカンとスタン・リー
https://www.lamborghini.com/en-en/lamborghini-stars-marvel-studios-doctor-strangeより

ドクター・ストレンジの愛車はランボルギーニのウラカンクーペである。ランボルギーニの公式サイトでも映画のために車両を提供したことが誇らしげに紹介されている。

https://www.lamborghini.com/en-en/lamborghini-stars-marvel-studios-doctor-strange

劇中で起きたことを考えると、あれが車の宣伝になるのかどうかはちょっと疑問だけども。まぁあれだけの事故を起こしても一命をとりとめましたという意味なのかな。

ちなみにランボルギーニ・ウラカンクーペの価格は大体2500-3000万円くらい。高給取りのドクター・ストレンジには買えない価格じゃないんだろう。

我々はミニカーで我慢↓

ドクター・ストレンジ愛用の腕時計

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Marvel's 'Doctor Strange' Keeps Time With A Jaeger-LeCoultre Master Ultra Thin Perpetualより

劇中に重要な小道具として登場するのがこちらの腕時計。ドクター・ストレンジの恋人(?)に相当するクリスティーンからの贈り物で、本体裏には

Time will tell you how much I love you, Christine.

とのメッセージが彫られている(このメッセージは映画で重要な意味を持っている)。

この時計はジャガー・ルクルトのマスター・ウルトラスリム・パーペチュアルのステンレススチールモデル。アメリカでの価格は19,000ドル*1。日本の正規価格は210,6000円というお品。高いよ。

210万円の時計をプレゼント?

210万円もする高級腕時計を高給取りの医師とは言え、恋人未満の男性に対して気軽に贈れるものだろうか。

アメリカの医者の給料がどれくらいなのか、ググって探しているうちにPayScaleというサイトに行き当たった。こちらでは色々な職業の給料が調べられて、しかも都市ごとの給料も教えてくれる。

ドクター・ストレンジは神経外科医、恋人(?)のクリスティーンは救急救命医でニューヨークの病院で働いているという設定だった。PayScaleによれば、ニューヨークの神経外科医の給料は平均359,037ドル、約4000万円。一方同じくニューヨークの救命救急医の給料は193,972ドル、約2200万円とのこと。平均値だけでみても、神経外科医は救急救命医の2倍近い収入があるようだ。

経験豊富で凄腕の神経外科医であるドクター・ストレンジと、まだ若くてトレーニング中(と見受けた)のクリスティーン医師ではおそらく2倍以上の給与格差があることだろう。クリスティーンからしたら年収の10%に相当する腕時計を、倍以上の給与を得ている男性にプレゼントするって、なかなか気軽なことじゃない気がするけど。プレゼントとしては重過ぎるわな。

ジャガー・ルクルトとは

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ちなみにジャガー・ルクルトはスイスのル・サンティエに拠点を置くマニュファクチュールである。「マニュファクチュール」は、時計の中の機械(ムーブメントという)からケースに至るまでの全てを一貫して自社生産する時計メーカーのことを特に指していう言葉。

意外に思われるかもしれないが、高級時計メーカーでも他社供給のムーブメント(汎用ムーブメントという)を利用して時計造りをしているところは多い。高級腕時計を買う際に、そのメーカーがマニュファクチュールであるか否かというのは一つの重要な判断ポイントである

エングレービング

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ジャガー・ルクルトを代表するモデルであるレベルソ

映画内では時計の裏面にメッセージが彫られていたけど、これはジャガー・ルクルトで一般に行われているサービスのひとつでエングレービングという(もちろん有料だけど)。特に同社のスペシャリテと言ってもいいモデルである「レベルソ」は時計の本体が裏返しになるという特殊機能があり(これはポロ競技選手のために産み出されたと言われている)、裏面に文字を彫って記念の贈り物にされたりすることが多い。

Goofs

続いては、劇中で私が気付いたgoofs(ミス)を取り上げてみたい。

手を洗ってからマスクをする外科医はいない

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映画冒頭でドクター・ストレンジが脳死宣告された患者を救うために手術を行うシーン。手術前のストレンジは丁寧に手を洗ってからおもむろにマスクを装着するのであるが。

折角手を洗ったのに、マスクに触れてしまったら手が不潔になってしまって台無しである。基本的にはマスクを装着した後に手を洗って、その後には余計なものには手を触れず、術衣を着て手袋をはめて手術に赴くものである。

ワインディングマシーンの角度がおかしい

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コレクションから腕時計を選ぶシーン
What watches were shown in Doctor Strange? - Quoraより

ドクター・ストレンジが運命のドライブに出かける時、引き出しを引くと無数の時計のコレクションが秘蔵されていて、中から一本の時計(前述のジャガー・ルクルト)を選びだすと言うこちらのシーン。

よく見ると、引き出しの中で時計が小刻みに揺れている、というか垂直方向を軸に左右に回転するように振動している。おそらくワインディングマシーンが備え付けられたケースなのではないかと推測する。

自動巻き機構とは

ワインディングマシーンについて解説する前に、機械式時計における自動巻き機構について話しておかねばなるまい。

機械式時計は基本的にはゼンマイの力で駆動している。チョロQで遊んだことのある人なら御存じかと思うが、ゼンマイはまず巻いてあげないとその力を発揮できない。一般的な機械式時計は手巻き式と言って竜頭(腕時計の3時部分外側にあるポッチ)の部分を廻すことでゼンマイを巻く仕組みになっている。

ゼンマイを手で巻くのが面倒だと言うズボラな時計愛好家のために開発されたのが自動巻き機構である。ローターと言う重りのような部品が装着者の腕の振りによってクルクルと回転することでゼンマイを巻いてくれる。時計を毎日装着していれば基本的にはゼンマイを手作業で巻く必要がなくなる。

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マスター・ウルトラスリム・パーペチュアルのムーブメント

これはドクター・ストレンジ愛用の時計の中の機械の写真であるが、写真内の4時から10時くらいの位置にある扇型の部品がローターである。自動巻き式の時計を耳元で振ると、このローターが回転する音がシャカシャカと聞こえてくる。

ワインディングマシーンとは

自動巻き式の腕時計は毎日装着している限りはゼンマイを手作業で巻く必要はないのだが、ドクター・ストレンジのような愛好家は複数の時計をTPOに合わせて付け替えたりするものである。すなわち、ある腕時計を装着するのは数日に一回だったりして、自動巻き機構を持ってしてもゼンマイ切れを起こすことがあるのだ。手作業で巻き直せば良いが、時刻が狂ってしまってそれを直す一手間がかかってしまう。

そんな複数の腕時計を所有して付け替えたりする数奇者のために開発されたのが「ワインディングマシーン」である。

[asin:B01MQNPKCO:detail]

腕時計をこの機械に装着しておくと、モーター駆動で腕時計をクルクルと回転させてくれて、前述の自動巻き機構によってゼンマイが自動で巻き上げられると言う仕組みである。

ワインディングマシーンの写真を見ていただくと分かる通り、時計が少し斜めに角度がついた状態で装着されている。この角度がつくことによって効率良くローターが回転してゼンマイが巻き上げられるのだ。

水平方向に回転させてもローターはうまく廻らない(はず)

前提知識が多くて長くなってしまったが、結論を言うとドクター・ストレンジのコレクションの腕時計は垂直方向を軸に回転していたが、この向きで幾ら回転させてもローターはうまく廻らないのではないかと思う。全く廻らないと言うこともなさそうだけど、いずれにしても効率が悪い。

さいごに

思わず熱くマニアックに語ってしまったが、ドクター・ストレンジの愛車と言い腕時計のコレクションと言い、羨ましいことこのうえない。

では