ニンニク入れますか?と言ってくれ

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さて

時々、と言っても月にいちど程度だが、無性に身体に悪いものを食べたくなった時に訪れるいわゆる二郎インスパイア系のラーメン店がある。私の住むエリアでは唯一の二郎インスパイア系ラーメン店であり、近隣に大学があることからいつも混んでいて店外に行列の絶えることのない人気店だ。

らーめん二郎および二郎インスパイア系の特徴といえば、醤油ベースの豚脂肪たっぷりのスープにごわごわと縮れた極太麺、山盛りのモヤシに厚いチャーシュー、そして何と言っても店主から客に向けて鋭く発せられる「ニンニク入れますか?」の名台詞が挙げられるだろう。

「ニンニク入れますか?」はニンニクを入れるかどうかと言う字義通りの意味の他に、ニンニク以外のトッピングの有無を尋ねているというのは二郎を訪れたことがある人であれば誰もが知っていることだろうし、二郎を初めて訪れる人にとっては恐怖の関門ともなっている儀式である。

自分は幸い初めて二郎(三田本店だった)を訪れた時は当時慶應大学に通っていた友人が同伴してくれて様々な暗黙のルールを教えてくれた。「ヤサイニンニクカラメ」「ヤサイニンニクカラメ」「ヤサイニンニクカラメ」と事前に決めたオーダーを脳内で何度もリピートして、「ニンニク入れますか?」の発声にタイミング良く「ヤサイニンニクカラメ」とオーダーして事無きを得た。以来、このオーダーを変えていない。少しのことにも先達はあらまほしきものである。

閑話休題

ところがつい先日、かの二郎インスパイア系ラーメン店を訪れたところ、麺が茹で上がって丼に移され、さらにモヤシ等を盛りつけ始めているにも関わらず「ニンニク入れますか?」の言葉が店員から聞かれない。なにかがおかしいなと思っていたが、なんとそのまま、ニンニクが載せられぬまま丼が目の前に着丼した。

え?ニンニクは?

混乱しながら、着丼したばかりのその丼の向こうを見ると、よくラーメン店の卓上に置かれているトッピング入れの容器に多量の刻みニンニクが入れられて置いてあるではないか。

どうやらこの店では「ニンニク入れますか?」がセルフサービスになってしまったようだ。俺は容器の中の匙を使って多量のニンニクをモヤシの山の上に載せながら、なんだか物悲しい気分になっていた。

隣人との繋がりがどんどん希薄になっていく現代社会。丸一日誰とも口を利かずに過ごすという人も多いだろう。そんな世知辛い世の中で、「ニンニク入れますか?」は現代人がどこかに忘れてきた、他者との繋がりを再認識させる魔法の言葉とも言えるのではないだろうか。「ニンニク入れますか?」がなくなったことで、そのうっすらとした繋がりすら断ち切られてしまったかのようだ。

だから俺は誰に聞かれることもなく独りひっそりと呟いたのだ

「ニンニク入れますか?」

「ヤサイニンニクカラメ」

と。

では


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