書評:乾くるみ「イニシエーション・ラブ」
さて
乾くるみ著、「イニシエーション・ラブ」を読了したので、それについて語るとしよう。
本作は2004年に発表された作品であるが、昨年くりーむしちゅーの有田哲平さんがテレビ番組内で「最高傑作のミステリー」と絶賛したことをきっかけに再ブレーク。あれよあれよと言う間にミリオンセラー、映画化と売れまくっているようだ。
自分は全くこの本を読む気はなかったのだが、ツレがなぜか買ってきて読み終えて「これ、静岡の話だよ」って言うので読んでみた。
文庫の裏表紙の惹句には
甘美で、ときにはほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説——と思いきや、最期から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。
最期の二行で逆転するミステリーと言ったら、そのトリックは
(以下ネタバレ注意報)
そのトリックは「叙述トリック」しかあり得んだろうなと思ったら、ずばりそのままでむしろガッカリした感があるな。
叙述ミステリーとしてはイマイチ
メインのストーリーは、主人公の「たっくん」と静岡市内の歯科医院に勤務する歯科助手、繭子の恋愛話なんだけど、恋愛らしい恋愛(男女の心の機微)と言うよりは男女が出会ってセクロスしているだけのお話で陳腐感が否めない。まぁセクロスした結果として繭子が妊娠してしまうと言うエピソードが重要なので仕方ないのかな。
静岡市民としては、確かに小説の前半は静岡が舞台になっていて、土地勘のある場所が幾つか出てきてそういう面の面白さはあった(作者の乾くるみ氏は静岡市出身)。ただ、年代的には80年代のお話なので、現在の静岡市内の様子とは異なる点も。
「叙述トリック」だと思いながら読めば、勘の良い読者は早い段階で真相に気付くことが出来ると思う。読みながら、少しずつ違和感が蓄積していって、最期の二行でにそれが一気に解決するので多少のカタルシスはあった。
だが真相を知った上で振り返ってみると、登場人物が両者とも下衆な人間であることが分かって読後感は極めて悪い。
竿竹!
特に触れておきたい下衆なシーンは、主人公のたっくんが脱童貞を果たし、その後2回目の交合をするシーン。行為の最中に外を竿竹屋の車が通りがかってうるさかったと言うことを評して繭子が一言。
「竿竹なら間に合ってますよって、よっぽど言おうかと思った、私」
WHY JAPANESE PEOPLE!
童貞を捧げた彼女にこんなお下品な発言をされたらドン引きです!(ちなみにたっくんは虚根と言う設定)
映画化は確かに不可能
叙述ミステリを読んだことがない(叙述ミステリという言葉自体を知らない)読者には、驚きを持って受け入れられるのかも知れないけど、「最高傑作のミステリー」はいくらなんでも言い過ぎだわ。
ところで、この作品は今般映画化されて、5月23日に公開されるらしい。主演に松田翔太、前田敦子、木村文乃。静岡市内でロケしたらしい。
叙述ミステリをどうやって映画にするのか?という興味はあるが、観に行く必要はないだろうな。DVDになったら観ます。
では