映画「鑑定士と顔のない依頼人」観た on DVD
さて
TSUTAYAで借りてきたDVDシリーズ、「鑑定士と顔のない依頼人」を観たのでそれについて語るとしよう。2013年公開、ジュゼッペ・トルナトーレ監督・脚本。主演:ジェフリー・ラッシュ、ドナルド・サザーランド。
あらすじは
ジェフリー・ラッシュ演じるヴァージル・オールドマンは天才鑑定士兼オークショニアとして財を築いた男。その裏では友人のビリーと組んで、気に入った真作の絵画を贋作と偽って安価で落札しては自宅の秘密の小部屋に飾って悦に入るという趣味の持ち主。
ある日、ヴァージルを直々に指名してクレアと名乗る若い女から鑑定依頼の電話がかかってくる。クレアは両親が遺した家に独りで住んでいるが、両親のコレクションを売り払いたいと言う。クレアの家を訪れるヴァージル、しかし彼女は壁の裏の隠し部屋に引きこもって顔を見せようとしない。
「広場恐怖症」を患うと言うクレアに好奇心を抱いたヴァージルは、あの手この手で彼女を社会復帰させようとするが・・・
というお話だ。
最初に結論を言うと、非常に良くできた映画で思う存分楽しむことが出来た。
90/100 点
と言いたいところだが、結末の後味の悪さがあり-10点して
80/100 点
映画のタイトルでGoogle検索するとWikipediaのページ等がヒットするのだけど、読んでみて驚いたのはWikipediaはストーリーの最後までネタバレ全開で書かれていて、観る前に読まなくて良かったなと心の底から思った。
TSUTAYAでDVDのパッケージを見かけて、壁一面に肖像画が掲げられた小部屋にたたずむジェフリー・ラッシュの様子を見て直感的に面白そうだなと思って借りてきたのだ。予備知識なしで観たのが逆に正解だったなと思う。
お勧めできる作品であり、未見の人には是非予備知識なしで観て欲しいので、続きは自己責任でどうぞ。
神は細部に宿る
この映画の魅力の一つは、ジェフリー・ラッシュが演じている主人公ヴァージルの人物造形の細やかさ。美術鑑定に命を捧げてきた偏屈老人なのだけど、その偏屈ぶりが映画の随所に描かれていて人物に深みを与えている。
例えば、ヴァージルがレストランで食事をするシーン。潔癖症の彼は他人が使った食器を使うことが出来ず、行きつけのレストランには「V O」と彼のイニシャルの入った専用の食器が用意されているのだ。しかも食事中も決して手袋を外さないという念の入れよう。
後に、クレアとトラブって気が動転した時に訪れた店では食器に「V O」のイニシャルが入っていなくて、普段と違う店に行ってしまったのだと分かり、彼の混乱ぶりが伝わってくる。
さらに彼は潔癖症ゆえに常に手袋をしているのだが、なぜか自分が気に入った美術品にだけは、愛おしむかのように素手で触れるのだ(美術品に素手で触れていいの?ってツッコミは無しで)。
この伏線があとでしっかり生きていて、クレアと親密になったときに彼女に素手で触れるシーンはちょっとジーンと来た。
そういう細部の描き方が実に緻密なので、目を皿のように見開いて少しのことも見逃すまいと真剣に観てしまったよ。
実写版「ギャラリー・フェイク」的な
本作はミステリー仕立てだったもんで、「ギャラリー・フェイク」のエピソードにありそうな話だなぁと思いながら映画を観ていた。
一応解説しておくと、「ギャラリー・フェイク」は細野不二彦がビッグコミックスピリッツに連載していた漫画。元メトロポリタン美術館の天才キュレーターで、今は東京で贋作専門の画廊を経営している藤田玲司を主人公とした、美術品をテーマにした作品。
どんな機械でも直してしまう青年が出てきたり(ギャラリー・フェイクの千手計に相当)、真作を贋作と偽って安値で落札してコレクションしちゃうエピソードなんかがギャラリー・フェイクっぽいなと思ったのだ。
ジュゼッペ・トルナトーレ
そして本作の脚本・監督を務めたジュゼッペ・トルナトーレって、あとから気付いたけど「ニュー・シネマ・パラダイス」や「海の上のピアニスト」を作った人なのね。どうりで映画が良くできているわけだわ、と納得したのだけど。
「ニュー・シネマ・パラダイス」はかつて観て、ご多分に漏れず号泣してしまったのだったが、「海の上のピアニスト」も近いうちに観ないといけないなと思った。
以下ネタバレ含むので本作を観た方だけどうぞ
さて、映画内ではある事件をきっかけにクレアを外に連れ出すことに成功し、ヴァージルとクレアは晴れて結ばれることになるのであるが。
幸せの絶頂で「オークショニアを引退する」とヴァージルが言い始めたあたりから、「あぁー、フラグおっ立てよった、こりゃ破局へのカウントダウンが始まったぞ」と思っていたのだが、まぁ実際に破局するのだけど、予想を超えるどんでん返しに目がくらんだ(勘のいい人は気付いてたんだろうけど)。
そして映画のラストで、クレアが思い出話で語ったプラハのレストランをヴァージルが訪れるシーンは、涙が出そうになった。
店員:Are you on your own, sir?(お一人ですか?)
ヴァージル:No, I'm waiting for someone.(いや 連れを待っている)
っていう幕引きのセリフの含蓄!
美しい恋の思い出とともに生きていこうと言う、ヴァージルの決意を聞いた気がした。あるいは偽物の愛の中に真実を見出したとも言えるだろうか。
ところで、劇中の重要な小道具として、クレアの母親の肖像画ってのが出てくる。これは実はヴァージルの友人で売れない画家だったビリーが描いたのだけど。
ヴァージルは天才鑑定士なら、その絵もビリーが描いたって気付かなかったのかなと思ったり。
あと、美術品(しかも盗品)を売りさばくのって結構大変そうだから、クレア達は後々苦労するだろうなと思ったり。それこそ藤田玲司の出番だろ。
以上です
では