TOEICスコアを上げたければ海外ドラマを英語字幕で観るべき

最終更新:2018/01/30

さて

これはTOEICのスコアを上げたいと考えている人のために書いた文章です。

本稿では私が長年実践している英語勉強法をシェアいたします。ひとことで言うと海外ドラマを英語音声 x 英語字幕で観るだけです。便宜上、ここでは「海外ドラマ英語字幕メソッド」と呼びたいと思います。

私が伝えたいことは実はこれだけで、あとの文章は説得力を増すための理論的裏付けやデータが書かれています(一応、お勧め海外ドラマの紹介もあります)。

これだけの説明では納得できないと言う方は続きをご一読下さい。時間のない方は『「海外ドラマ英語字幕メソッド」とは』からどうぞ。

英語力を定義する4象限

そもそも英語力(英語に限らず語学力)はどのように定義されるものでしょうか。これは既にご存知の方も多いと思いますが英語力は、受動的/能動的 x 文字/音声の2x2のマトリックスで定義できます。

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すなわち、

  • Reading = 受動的・文字
  • Listening = 受動的・音声
  • Writing = 能動的・文字
  • Speaking = 能動的・音声

です。

受動的はinput、能動的はoutputということもできます。

「海外ドラマ英語字幕メソッド」で鍛えられるのは、このうち「受動的:input」に相当するReadingとListeningの2象限になります。

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能動的トレーニングについては、アウトプットの結果を修正してくれる教師役がどうしても必要になりますので、本法では直接的にはトレーニングはできません。しかし、inputを積み重ねることでoutputの質も確実に向上するものと期待できます(自分の中にないものをoutputすることはできませんから)。

業務上の必要や、履歴書に箔をつけるためにTOEICや英検などの英語資格検定のスコアを必要とされている方も多いと思われます。これらの試験で問われているのは、実は圧倒的に受動的英語力です。実際、TOEICの試験問題はReadingとListeningの2つのセクションから構成されていますよね。よって、受動的トレーニングのみでTOEICのスコアを伸ばすことは充分に可能と思われます*1

英語多読研究会が推奨する英語多読法とは

次いで「海外ドラマ英語字幕メソッド」の着想の原点となった、英語多読法をご紹介します。

英語多読法とは、英語多読研究会(Start with Simple Stories;SSS)が推奨する英語の勉強方法です。詳しくは以下のサイトをご参照頂きたいのですが、簡潔に言えば非常に易しい本から始めて徐々にレベルアップしながらとにかくたくさん英語の本を読むという方法です。

SSS英語学習法のご案内(

英語多読法のルールとして、英語多読研究会は以下の3原則を掲げています。

多読3原則とは?
 SSSでは、次の3つの原則を 多読3原則といっています。

  1. 辞書は引かない(引かなくてもわかる本を読む)
  2. 分からないところは飛ばして前へ進む(わかっているところをつなげて読む)
  3. つまらなくなったら止める(1. 2.の原則で楽しく読めない本は読まない) 

10年前にこの方法に初めて出合った時は衝撃的でした。一時期感化されてペーパーバックで海外小説を目一杯読んでいた時期があり、自分の英語力向上に大きく寄与したと思っています。

英語多読法について詳しく知りたい方は、英語多読研究会の古川昭夫さんの以下の書籍をお薦めします。

「海外ドラマ英語字幕メソッド」とは

ここからが本題。英語多読法から着想した「海外ドラマ英語字幕メソッド」の要点は、海外ドラマを英語音声 x 英語字幕で観る。たったこれだけです。ただ、上記の多読3原則と同じく、一応ルールを決めています。

1. 辞書は引かない
2. 分からないところも気にせず前へ進む
3. つまらなくなったら止める

です。

1.の「辞書は引かない」に関しては正確には「DVDを停止して辞書を引くことはしない」です。分からない単語があれば、DVDを見終わってから辞書で調べてください

2.の「分からないところも気にせず前へ進む」について。おそらく最初のうちは何を言っているか、字幕でなにが書いてあるかもほとんど分からないかもしれません。ですが映像からのデータが英語の理解を助けてくれるはずです。

3.の「つまらなくなったら止める」については、英語学習とは謂え苦しくては続きません。つまらなければ容赦なく次の作品を選びましょう。

「海外ドラマ英語字幕メソッド」の優れた点

次いで、「海外ドラマ英語字幕メソッド」が従来の英語学習法に比べて優れている点を列挙します。

ListeningとReadingを同時に鍛えられる

「海外ドラマ英語字幕メソッド」では、ドラマを見ながら俳優達の発声を聞き(Listening)、英語字幕を読む(Reading)と英語の受動的能力の2象限を同時にトレーニングすることができます。

海外ドラマはアメリカなりイギリスなり国内の英語を母語とする人々をターゲットに制作されていますから、出演者達はナチュラルスピードで話しています。

慣れるまでは大変かもしれませんが、ハイスピードのListeningに慣れておけば、TOEICのListening問題はむしろ遅く感じるようになると思います。Readingのスピードも必然的に上がりますので、TOEICの長文問題も短時間に読みこなせるようになるでしょう。

強制的に直読直解のトレーニングができる

これはReadingによる勉強法に対しての優位点になります。日本の英語教育では、「返り読み」といって、英語の文章の中を行ったり来たりしながら日本語に逐語訳していくと言うやり方がとられています。おそらく漢文を訓読して学習していた文化の名残と思うのですが、これを卒業しない限りは永遠に英語力は完成しません。

英語の文章を英語の語順のままに直接理解する能力を鍛える必要があります。これを直読直解と言います(「英語脳」などとも言われています)。

Readingで勉強をしていると、どうしてもクセがでて文章の中を行ったり来たりしながら読み下してしまいがちです。しかし「海外ドラマ英語字幕メソッド」では音声情報も文字情報も一方通行で流れていきますから(実生活での会話もそうですよね)、強制的に直読直解のトレーニングをすることになります。

「海外ドラマ英語字幕メソッド」を英語音声 x 日本語字幕で観る方法と比べると、後者では日本語字幕と言う情報が介在することにより直読直解を妨げてしまうので、英語の学習法としてはお勧めできません(本稿の後半に実証データを示します)。

わからない単語を推測する力が鍛えられる

海外ドラマを観ている中で、初めて見聞きする単語に多く出合うと思います。先ほどの3原則で述べたように、分からない単語に遭遇してもすぐに辞書を引いてはいけません。そのかわり、その単語の綴りと発音をしっかり憶えましょう。そして必ず、その単語の意味を自分なりに推測してください。

単語の意味を推測するのは、前後の会話の文脈や綴りから派生して想起される他の既知の単語からの連想などの方法があります。

同じ単語が1回のドラマの中で複数回登場することもあると思います。それはすなわちその単語が使用頻度の高い単語であることの証明ですので、覚える価値があると言うことです。

海外ドラマは長くても1本45分程度ですから、ドラマを見終わったら辞書で調べてみましょう。そして自分が推測した単語の意味と答え合わせをしてください。最初のうちは的外れな推測が多いかもしれませんが、長く続けているうちに正答率が上がってきて、楽しさが増してくると思います。また、45分間、あとで調べるために単語の記憶を保持しておくことが、後々の記憶の定着を大いに助けてくれるでしょう。

映像が単語の理解や記憶の定着を助ける

これはListening専用教材に対しての優位点になりますが、ドラマや映画の映像が与えてくれる情報量はとても多いです。話されている単語が初見の単語であっても、映像や前後の文脈が与えてくれる情報が単語の理解を助けてくれるでしょう。また、映像と同時に単語がインプットされることで、映像情報が後に振り返る時のキーとなり、単語情報を想起することを容易にしてくれると思います。

映画よりもドラマシリーズを勧める理由

英語音声 x 英語字幕を観る方法は、もちろん映画のDVDを観るのでも良いのですが、敢えて海外ドラマシリーズを勧める理由がいくつかあります。

以下に理由を列挙していきます。

  1. 教材選択のコスト
    映画のDVDだと1本で完結してしまいます。次に借りる作品を何にしようかと考える手間がかかりますね(それもまた楽しいかもしれませんが)。海外ドラマシリーズであれば、1本目が終われば単に続きのエピソードを見始めればいいだけなので、作品を選択する手間が省けます。

  2. 教材のボリューム
    これは上の項目とも重なりますが、映画だと1本2時間程度で終わってしまいますが、海外ドラマシリーズでは1シーズンあたり10話から20話程度、さらに人気のある作品だと複数シリーズにわたってストーリーが展開します。教材としてのボリュームが圧倒的にあります。
    「海外ドラマ英語字幕メソッド」の第2のルールとして、「分からないところも気にせず前へ進む」を掲げましたが、映画の場合は上映時間が2時間と短いので「分からないところ」が占める比重も必然的に大きくなります。これは大きなストレスになります。海外ドラマの場合は全体のボリュームが大きいので、分からないところの比重も少なくなります。また回を追うごとに「分からないところ」がだんだんと減ってくるはずです。

  3. 視聴者を飽きさせない工夫が凝らされている
    海外ドラマシリーズは日本のドラマに比べれば莫大な予算がつぎ込まれています。その分シリーズ継続の判断はシビアで、視聴者に受けないと判断された作品はすぐに打ち切りになります。逆に言えば視聴者の興味を惹きつける、飽きさせないための工夫が凝らされていると言えますので、楽しく観ることができるでしょう。

  4. 登場人物が多くバリエーション豊かな英語に触れられる
    映画に比べて海外ドラマシリーズはトータルの放送時間が長いので、より多くの出演者が登場する傾向があります。これは特にアメリカのテレビシリーズで言えることですが、アメリカの人口構成を反映して様々なエスニシティやバックグラウンドをもつキャラクターが登場します。その結果として多様なバリエーションの英語に触れることができます。これは、限られた登場人物で話が展開する映画では得られないメリットです。

英語字幕メソッドでTOEICスコアが向上した研究データ

つぎに、私の提唱する「海外ドラマ英語字幕メソッド」の有用性を客観的に示すデータを提示したいと思います。摂南大学助教授(当時。現:京都産業大学教授)の植松茂男氏の研究データです。

DVD映画教材利用時の英語字幕が英語学習に与える影響について

研究の目的は、映画教材を用いた英語学習において字幕が及ぼす影響を調査することです。研究対象は大学生計378名。事前にTOEICテストを実施しスコアに応じて初級グループと中級グループに分けられました。

2群をさらにそれぞれ、「英語音声 x 英語字幕」「英語音声 x 日本語字幕」の2グループに分け、毎週の講義で5分間の映画教材ビデオを2回ずつ視聴させました。計12週間これを継続(60分相当のビデオ教材を2回視聴した計算)し、再度TOEICテストを実施し、ビデオ視聴の教育効果を計ると言うものです。

研究結果のデータを示します。まずは初級グループ。

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左側の英語字幕グループでは、聴解力、文法解読力ともに有意に成績が向上しているのに対して、右側の日本語字幕グループでは成績に変化が見られません。

次いで、中級グループの結果は、

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こちらでは英語字幕グループ、日本語字幕グループともに成績が向上していますが、前者のほうが成績の上昇率が高いことが分かります(有意差あり)。

英語字幕で視聴することによりTOEICスコアが実際に上昇していると言う、勇気づけられるデータです。英語初級者にも効果があることに注目していただきたいです。

ちなみに、この研究で課題として使用されたのはアメリカ映画の「フリーウイリー」と言う作品です。

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海外ドラマシリーズの選び方

ここまで読んでこられた方は、海外ドラマで英語を勉強しても良いかなという気になってきたのではないでしょうか。

ここで、自分が考える「海外ドラマを選ぶコツ」を紹介します。

  1. 自分が本当に観たいと思う作品はダメ
    自分が本当に観たいと思う作品を選ぶのはやめましょう。海外ドラマを英語字幕で見るのは、最初のうちは慣れないので、話が全く分からないこともあるでしょう。自分の興味があるのに内容が分からないと言うのは非常に大きなストレスになります。むしろ、あまり興味はないけど一般的には人気が高い作品を選ぶのがよいと思います。

  2. 3シーズン以上継続しているものを
    先にも触れましたが、海外ドラマでは視聴者に受けない作品は容赦なく打ち切りになります。目安として、3シーズン以上継続しているものを選べば外れがないと思います。

  3. 日常会話の多い作品を
    作品を選ぶ際は日常会話シーンの多いものを選ぶと良いでしょう。例えば「24」シリーズは大人気海外ドラマですが、アクションシーンが多く会話シーンが少ないため、英語の学習教材としては不向きです。

  4. かけ離れた世界観の作品はダメ
    たとえば海外ドラマの大きなジャンルとして「医療」を取り上げた作品群があります。代表的なところでは、「ER」「Dr.House」「Grey's Anatomy」などです。これらの作品は病院が舞台になっているため、会話の内容も医療に関するものが必然的に多くなります。一般的には使われない単語(jargon)が多いので、日常会話の勉強にはならないでしょう(逆にあなたが医療従事者であれば、それが日常会話になるので積極的に観るべきです)。
    あるいはファンタジーの世界を舞台にした作品、たとえば「Game of Thrones」なども日常的には使われない言い回しが多用されるので学習教材としては不向きでしょう。

お勧め海外ドラマ

ここから先は、私が実際に視聴してきた海外ドラマシリーズをご紹介します。前項で触れた選択基準にのっとっているので正直セレクションはベタなものです。また、にぎやかしのためにamazonへのリンクを貼っておきますが、繰り返し観ることは推奨していないので、DVDを購入する必要はないでしょう。むしろTSUTAYAへ行ってレンタルするかNetflixやhuluに登録するかしてください。

「LOST」:全6シーズン、計121話

今やスターウォーズの監督にまで登り詰めたJ・J・エイブラムスが監督した人気ドラマシリーズ。旅客機が無人島に墜落。生き残った乗客達が協力しあい、時に衝突しながらサバイバルしていくお話。謎が謎を呼ぶ展開が視聴者の興味を惹きつけるが、提示された謎が一向に解明されないので正直途中で飽きます。最終シーズンに真田広之が出演するらしいのですが、実はそこまで辿り着きませんでした。"Quarantine"という単語を学びました。

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「ローマ」:全2シーズン、計22話

アメリカのHBOとイギリスのBBCが共同制作した海外ドラマ。百人隊長ヴォレヌスとその部下の軍団兵プッロを中心に、内乱期のローマ共和国を描いています。歴史物ですが、内容は普遍的な人間ドラマなので英語学習用には支障ないと思います。巨額な費用を投じて制作されたセットや衣装の豪華さもみもの。"Centurion"の意味をこのドラマで知りました。

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「ザ・フォロイング」:全3シーズン、計45話

世界で唯一ベーコンナンバー0を持つ男、ケヴィン・ベーコン主演のサイコサスペンスです。ベーコン先生は元FBI捜査官役、かつて自分が逮捕した連続殺人鬼が脱走し、捜査協力を依頼されて現場に復帰します。連続殺人鬼を演じているジェームズ・ピュアフォイの怪演がみものです。残虐描写がちょっと多めなので注意。第3シーズンを現在WOWOWで放映中です。

「HEROES」:全4シーズン、計77話

超能力者たちの戦いを描いた大人気シリーズ。最近日本のテレビでもよくみかけるマシ・オカさんが出演。悪役サイラーを今やMr.スポックとなったザカリー・クイントが演じています。

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「シャーロック」:全3シーズン、計9話

アメリカ作品が多めになったので、BBC制作の正統派イギリス作品も一本。今や大スターのベネディクト・カンパーバッチ主演。舞台を現代イギリスに置き換え、コナン・ドイルの原作に基づいた新しいシャーロック・ホームズを描いています。第4シーズンの制作が既に決定しているようです。

[asin:B00OB5C9QI:detail]

さいごに

なんだか偉そうなことを書いてきましたが、自分は英語は好きだけど「勉強のための勉強」みたいのは嫌いです。ここで紹介した「海外ドラマ英語字幕メソッド」は楽しみながら英語の勉強になるので継続することが出来ました。個人的な成果としては、この方法だけでTOEICのスコアが200は伸びたので効果はあると思っています。

是非お試しください。

長文失礼いたしました。

では

追記:補足記事を書きました

igcn.hateblo.jp


*1:逆に言うと、TOEICのスコアでは能動的英語力は評価できない