初心者にお勧めする三島由紀夫の小説ベスト5

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さて

大好評を頂いております(?)三島由紀夫没後45周年特別企画。 昨日は自衛隊市ケ谷駐屯地見学会について書いた。

この記事の中で、

「ファンでない方にはゴメンナサイだけど、これを機に一度読んでみるのも一興と思う。」

と書いたが、これだけではあまりにも無責任なので、第2回の今回は「初心者にお勧めする三島由紀夫の小説ベスト5」をお届けしたい。

ではいってみよう!

第5位:沈める滝

誰をも愛することのできない二人がこうして会ったのだから、嘘からまことを、虚妄から真実を作り出し、愛を合成することができるのではないか。負と負を掛け合わせて正を生む数式のように。

天性の美貌と豊かな財力にめぐまれた貴公子城所昇は、愛を信じない青年である。彼は子供のころ、鉄や石ばかりを相手にしてすごし、漁色も即物的関心からで、愛情のためではない。最後の女顕子に惹かれたのも、この人妻が石のように不感症だったからなのだ。──既成の愛を信じないという立場に立って、その荒廃の上にあらためて人工の愛の創造を試みた、三島文学の重要な作品。

三島由紀夫 『沈める滝』 | 新潮社

愛を信じない男と不感症の女が人工の愛を構築しようとする話。扱っているテーマは極めて観念的であるが、故に三島らしいとも言える。

主人公城所昇の女性に対する態度は今流行りの恋愛工学生を思わせる。三島の先見の明に驚嘆する。

第4位:午後の曳航

誰も知るように、栄光の味は苦い。

船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実の挑戦であった。登は仲間とともに「自分達の未来の姿」を死刑に処すことで大人の世界に反撃する――。少年の透徹した観念の眼がえぐる傑作。

http://www.shinchosha.co.jp/book/105015/

「午後の曳航」は、実は自分が中学2年の時に初めて読んだ三島由紀夫の作品であり思い出深い。主人公の少年登とちょうど同世代だったのでいろんな意味で衝撃的な作品だった。

本作で描かれているのは窃視趣味やオイディプスコンプレックス、英雄の死など三島由紀夫の主要なテーゼが充分に織り込まれている。

文庫本で180ページ弱の中編であり、読みやすい一品。

神戸児童連続殺傷事件の犯人(酒鬼薔薇聖斗もしくは少年A、現おっさんA)が逮捕されて、14歳の少年と知った時に真っ先にこの小説のことを思い出した。

少年Aも猫を殺害していたようだが、本作にも主人公の少年たちが猫を解剖するシーンが出てくる。

三島由紀夫は預言者か!。

第3位:春の雪

今、夢を見ていた。又、会うぜ。きっと会う。滝の下で

維新の功臣を祖父にもつ侯爵家の若き嫡子松枝清顕と、伯爵家の美貌の令嬢綾倉聡子のついに結ばれることのない恋。矜り高い青年が、〈禁じられた恋〉に生命を賭して求めたものは何であったか?――大正初期の貴族社会を舞台に、破滅へと運命づけられた悲劇的な愛を優雅絢爛たる筆に描く。現世の営為を越えた混沌に誘われて展開する夢と転生の壮麗な物語『豊饒の海』第一巻。

http://www.shinchosha.co.jp/book/105021/

第3位に「春の雪」を持ってきた。本作は2005年に妻夫木聡、竹内結子の主演で映画化された事から知っている人も多いのではないか。

この作品を入り口にして三島由紀夫の道に入るのはありだと思う。しかし本作は入口にして同時に到達点の入口でもある。と言うのは、「春の雪」は三島由紀夫の絶筆となった「豊饒の海」四部作の第一巻にあたるのだ。だが、単体の恋愛小説として読んでも全く差し支えない。

「春の雪」から三島由紀夫を読み始めたら、一通り彼の代表作を読んだ後にぜひまた戻ってきて欲しい。そして第二巻以降を読み進めよう。四部作を通読するのはなかなか困難な事業ではあるが、やり抜く価値は絶対にある。

第2位:憂国

武山中尉の結婚式に参列した人はもちろん、新郎新婦の記念写真を見せてもらつただけの人も、この二人の美男美女ぶりに改めて感嘆の声を漏らした。

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十六歳で、少年の倦怠を描いた作品「花ざかりの森」を発表して以来、様様な技巧と完璧なスタイルを駆使して、確固たる短編小説の世界を現出させてきた作品群から、著者自らが厳選し解説を付した作品集。著者の生涯にわたる文学的テーマや切実な問題の萌芽を秘めた「中世に於ける一殺人常習者の遺せる哲学的日記の抜萃」「詩を書く少年」「海と夕焼」「憂国」等13編を収める。

http://www.shinchosha.co.jp/book/105002/

上の新潮社のサイトから引用した紹介文には「憂国」についてはほとんど触れられていないが、三島由紀夫自身は「憂国」を初読者に勧めたい作品として挙げている。

「私の作品を今まで一度も読んだことのない読者でも、この『憂国』といふ短篇一篇を読んで下されば、私といふ小説家について、あやまりのない観念を持たれるだらうと想像する。そこには、小品ながら、私のすべてがこめられてゐるのである。」

と述べている。

二・二六事件をテーマにした作品。主人公の武山中尉は新婚であることを理由に蹶起に誘われなかった。勅命により仲間の将校達を討たねばならなくなった中尉は懊悩の末死を決意、妻とともに割腹自決をする。

と言うストーリー。死とエロスと義の三位一体を描いた作品であり、三島自身の主演で映画化もされている。

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後に自衛隊市ケ谷駐屯地で割腹自決を遂げたことを思えば、自身の代表作として本作を挙げるのもむべなるかな。

「憂国」については以前も記事を書いたので合わせてご参照下さい↓
226と「憂国」 - Noblesse Oblige 2nd

第1位:仮面の告白

私の内部から暗い輝かしいものの足早に攻め昇って来る気配が感じられた。と思う間に、それはめくるめく酩酊を伴って迸った。

「私は無益で精巧な一個の逆説だ。この小説はその生理学的証明である」と作者・三島由紀夫は言っている。女性に対して不能であることを発見した青年は、幼年時代からの自分の姿を丹念に追求し、“否定に呪われたナルシシズム”を読者の前にさらけだす。三島由紀夫の文学的出発をなすばかりでなく、その後の生涯と、作家活動のすべてを予見し包含した、戦後日本文学の代表的名作。

http://www.shinchosha.co.jp/book/105001/

第1位は「仮面の告白」。三島由紀夫の自伝的作品である。

冒頭に引用したのは、主人公がグイド・レーニの「聖セバスチャン殉教図」を見て初めてのmasturbationとejaculationを経験、自身の同性愛的嗜好に気付くというシーン。

三島由紀夫が本当に同性愛者であったかと言うのは議論のあるところ。結婚して子供もいるので純粋な同性愛者と言うわけでもなさそうだが、三島事件を森田必勝との情死と見る向きもあり、結論は出ない。

三島由紀夫と言う人物を知るうえでは避けて通れない作品。

ちなみに「聖セバスチャン殉教図」はこちら↓
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さいごに

初心者向けとして紹介しておいてなんだが、正直三島由紀夫の文章は語彙が難解で初読者には読みにくい事このうえないと思う。だが、読み進めていくうちにきっとその文体の虜になることだろう。

大衆向け小説として書かれた作品、例えば「夏子の冒険」や安部譲二をモデルにした小説「複雑な彼」、あるいはメジャーな人気のある「潮騒」などを紹介しても良かったのだが、これらの作品を読んでも三島由紀夫の真の魅力は分からないと思い、敢えて今回紹介した5作品を選出した。

三島の代表作と言える作品ばかりになってしまい恐縮である。振り返ると単に自分の好きな作品を挙げているだけとも思える。

マニアの皆さまからのお叱りもお待ちしています。

では


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