タイプミスの伝播でコピペがバレる現象について
さて
先日書いた長谷川豊くんへの反論記事が炎上してしまいました。多くの方が当ブログを訪れて記事を読んでくれたようで、また新たに読者登録をしてくれた方も20人ほどいます。普段はあまり刺激的なことを書いているわけではないので、新規購読者の皆様の期待に沿えないかもしれません、あらかじめ御了承下さい。
長谷川くんの炎上については、fujipon先生の2本の記事*1*2を始め真摯な反論エントリが多数挙げられており、このネタを引っ張るのもこれでおしまいにしておきたいところですが、数ある反論エントリの中でも一本非常に興味深く感じた記事があったので御紹介させていただきます。
長谷川豊くんのコピペ疑惑を指弾
長谷川豊さんの人工透析自己責任論がコピペすぎる - 畳之下新聞
id:nukalumixさんの上記エントリで、長谷川豊くんのブログ記事中の「(者1人同伴も半額)」という意味の通らないタイプミスをきっかけに、該当部分がある人工透析患者の方、というか一部ネットウォッチャーには有名なだいちゃんさんのブログ記事からのコピペであることを発見されています。
http://www.だいちゃん.com/entry/2014/04/10/人工透析をやっていますが、『人工透析患者』の
人工透析患者を批判する文章のネタを、人工透析患者のblogからそのままコピペしてくるとは、驚きを隠せません。 それとも、たまたま同じミスタイプをしたのでしょうか?
長谷川豊さんの人工透析自己責任論がコピペすぎる - 畳之下新聞
たまたま同じタイプミスをすると言うことは考えにくいから、コピペをしたと考えて良いでしょう。引用の要件を満たしていればコピペをすること自体は決して悪くないと思うのですが、長谷川くんの場合は引用であることを明記せずに書いているのが問題だと思います。
そしてブログをコピペされただいちゃんさんによる怒りのエントリがこちら。
長谷川豊にブログの文章をパクられた 貴様ちょっと出てこいや!! - だいちゃん.com
引用する前に読め、コピペする前に汗をかけ、汗を
この件で自分が興味深く感じたのが、タイプミスの伝播をきっかけにブログ記事の剽窃が発覚したと言う点です。長谷川くんの場合は、明らかに意味の通らないタイプミスで、自分で記事を書いていたならば絶対に起こさないであろうと言う内容であり、id:nukalumixさんの注意を引くきっかけになりました。
同様にタイプミスの解析を行った興味深い論文があるので御紹介します(ここからが本記事の本題)。2002年にarXiv.org上で発表された"Read before you cite!(引用する前に読め!)"という論文です。原文のPDFが下記のリンクから入手可能なので、興味のある方は読んでみて下さい。自分には後半の数式は理解不能でしたが・・・
スラドに解説の記事があるので、時間のない方はこちらを読んでもらったほうが早いかも。
学術論文を書く際は、自説の論拠を示すために過去の論文を適宜引用すると言うことが一般に行われています。本来であれば引用(cite)する文献をちゃんと読んで(read)いなくてはならない筈ですが、中には引用する文献を読まずにその文献を引用している別の論文から孫引きをする輩がいるわけです。
この際に、大本の論文にはなかったタイプミスがあるとそれが伝播していくことになります。大本の論文をちゃんと読んでいればタイプミスが拡散してくことはないでしょう。
if someone accesses the original by tracing it from the reference list of a paper with a misprint, then with a high likelihood, the misprint has been identified and will not be propagated.
こう言ったタイプミスを統計学的に解析したところ、論文執筆者のうちで引用文献をちゃんと読んでいるのは20%にすぎないと言うことが分かりました。
Our estimate is only about 20% of citers read the original.
論文執筆者の責務として、引用する文献は全文をしっかりと読み込むべきである筈ですが、実際には20%しか読まれていないと言うのは衝撃的な数字でした。
映画館の障害者割引は半額ではなくて1000円
話を戻すと、だいちゃんさんのブログ記事には障害者手帳の特典として、
私の住んでいる地域では、
・映画館の利用が常に半額(者1人同伴も半額)
・公共交通機関の利用料の半額(者1人同伴も半額)
・タクシーの初乗運賃の無料チケットが貰える(1枚1枚にに利用期間の設定有り)
・高速道路の利用料金の半額
とあり、長谷川くんはこの部分を透析患者の得られる利得としてそのまま引用しています。
ここでちょっと汗をかいて調べてみると、たとえば有楽町にある東宝系映画館の日劇では、障がい者割引額は1000円とありました。
障がい者割引 Disabled Person
¥1,000
※付き添い1名様まで同料金。障がい者手帳をご提示ください。
その他全国の映画館での障害者割引については下記のサイトにまとまっています。
ざっと見た限りでは多くの映画館が本人と同伴者1名まで¥1,000という価格設定をしているように見受けました。映画の一般料金は1800円だから「半額」という書き方はあたりませんね。元記事を執筆しただいちゃんさんがどこに住んでいるか分からないし2年前の記事だから現状とは事情が違うのかもしれませんが。
自分で調べて記事を書いていれば、
・映画館の利用が1000円(同伴者1人も同額)
と書くでしょうね。
「アンコール・アペイロンの消滅」
ここで、今回紹介したスラドの記事のあるコメントが面白かったので御紹介しておきます。
意地の悪い某教授はわざと架空の論文を『参考文献』のリストに入れておき、あとでその架空の論文が誰かの論文の『参考文献』に挙げられていないかどうか探すのを楽しんでいたそうです。
『アンコール・アペイロンの消滅』や『FEPの意図的誤変換』を 連想させるギミックですね。
まさか、だいちゃんさんも2年後のこの炎上事件を見越して敢えてブログ中にタイプミスを遺しておいたのでは・・・
だいちゃんさんの件の記事の冒頭に
最近、もしかして自分は「神」なんじゃないかと思うようになってきました。
とあるけど、今回の件は一周廻ってホントに神がかっていましたわ*3。
さいごに
いちブログ執筆者として言うのもなんだけど、何かを調査する時にネットを利用することは確かに多いけど、情報ソースとしてブログ記事を頼るのは正直信頼性に欠けますよね。
継続して読み続けているブログであれば、まだしも筆者の人柄とか知性とかがにじみ出てくるから信頼するしないの判断根拠があるけど、たまさかネット検索で引っかかったようなブログ記事を信頼するかって言うと自分は信用しません。
情報ソースの取捨選択は報道に携わるものとしてはおろそかにしてはいけないのではないでしょうか。
では
*1:http://fujipon.hatenablog.com/entry/2016/09/21/105816
*2:http://fujipon.hatenablog.com/entry/2016/09/23/075038
*3:ちなみにだいちゃんさんの記事にもう一ヶ所誤記トラップを発見したけど、内緒にしておきます