登山家・栗城史多氏は失敗することに失敗した
さて
登山家の栗城史多氏がエベレストで下山中に命を落とされたとのこと。まずは氏のご冥福をお祈りしたい。
栗城氏は今回を含めこれまでに8回エベレスト登山に挑戦していずれも失敗している。2012年には重度の凍傷で手の指を9本失う怪我を負っているが、その後も諦めずに挑戦し続ける姿に感動を覚えて氏を応援する人も大勢いたようだ。
http://www.kurikiyama.jp/supporter2018everest
なぜあえて困難なルートに挑戦し続けたのか
栗城氏はこれまで敢えて難しいルートを選び、エベレスト単独無酸素登頂にこだわって挑戦し、いずれも失敗してきた。
彼の挑戦がいかに無謀なものであったか、7回目の登頂失敗の後に書かれたこちらのブログの記事が詳しい。
森山編集所: 栗城史多という不思議
森山編集所: 栗城史多という不思議2
これらの記事によれば、栗城氏は登山家としては大学野球レベルの実力なのにメジャーリーグ級の課題に挑戦していたとのこと。
大学野球の平均的選手が、「おれは絶対にヤンキースで4番を打つ」と言って、毎年テストを受け続けていたとしたら、周囲の人はどう思うでしょうか。大学生の年齢なら、これから大化けする可能性もないとはいえないから、バカだなと言いつつ、あたたかい目で見守ることもあるかもしれない。しかし、実力だけが大学レベルで、年齢は35歳。これまですでに7回テストに落ち続けている。
失敗し続けることが氏のアイデンティだったのでは
私は登山については正直門外漢だが、以前氏が5度目の登頂失敗した後にこんな記事を書いたことがある。
記事から一部を引用する。
栗城氏は自身の最終目標を「エベレスト単独無酸素登頂」に置いているようだが、それに成功してしまうことを実は恐れているのではないだろうか。別の言い方をすれば、チャレンジし続けることこそが自身のアイデンティティになってしまっているのではないか。 エベレスト登頂に成功してしまえば次に新たな目標を掲げなくてはならない、それが怖いのではないか。と邪推してしまう。
栗城史多氏の無謀なエベレスト登山計画はセルフ・ハンディキャッピングでは? - Noblesse Oblige 2nd
この記事で自分が書いたことは謂わば邪推であったのだが、栗城氏が亡くなった後にアップされた致知という意識高い系雑誌のFacebookページの写真を見て自分は驚かされた。
成功よりも
チャレンジ
していることに
価値がある
自分の邪推をそのまま肯定する本人の言葉。
チャレンジし続けることの方が成功よりも価値があると言うことは、逆に失敗し続けなければいけないと言うことだ。
Abema TVで登頂の生中継が予定されていた
栗城氏は今回8度目のエベレスト挑戦だったわけだが、登頂当日の模様がAbema TVで生中継予定だったらしい。すでにAbema TVのサイトからは該当ページは削除されている。
この生放送の予定があったから体調が悪いのに無理してベースキャンプに留まっていたのでは? / “生中継!9本の指を失った登山家・栗城史多 エベレスト8度目の挑戦 | 無料のインターネットテレビはAbemaTV(アベマTV)” https://t.co/R6wtMCtWQa
— iGCNメンバー (@iGCN) 2018年5月21日
そもそも天候や体調に左右される山頂アタックを番組の放映時間を決めて生中継すると言うこと自体がありえない気がするのだが、この生中継の予定があったからこそ栗城氏は体調不良を押してギリギリまでベースキャンプにとどまっていたのではないかと思う。
すでに消されてしまった番組告知ページには、
※天候や体調により、登頂挑戦を断念する場合がございます。その場合は放送延期となりますので、ご了承ください。
と言う注意書きがあったのだが、今となっては何かの予兆だったとしか思えない。
引くに引けない状況まで自身を追い込んでしまったのだろう。あのモレーンでの数分間が最後に。互いに言葉が見つけられないまま息づかいによる会話が少しだけ。手を握り別れ振り返ると後ろ姿がとても小さく見えた。また1人、大好きな仲間が逝ってしまった。無念の一言に尽きる。とてつもなく寂しい。
— 野口健 (@kennoguchi0821) 2018年5月21日
栗城氏は今回失敗することに失敗してしまった
これまでに7回登頂失敗に成功してきた栗城氏が8回目についに失敗することに失敗して命を落としてしまった。
周囲の声援や生中継の予定が氏を追い込んでしまったのではないか。
喪われた命はもう帰ってこない。
生きて帰ってこそ登山。
では
夢枕獏のこの本は登山家の執念・狂気がよくわかる名著。一読をお勧めする。
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