アルジャーノンだけじゃない!ポケモン、ピカチュウ、サウザーなど医学・生物学界の面白ネーミングを紹介する

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さて

ダウン症の出生前治療につながる新たな化合物が発見されたというニュースが今話題になっている。京都大学が発見したその物質が「アルジャーノン」と名付けられていた*1ことから、多くの人がダニエル・キイスの小説「アルジャーノンに花束を」を連想して盛り上がっているようだ。

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ちなみに自分はこの小説を読んだことがなくて、タイトルとなんとなくの内容しか知らないので、特にコメントすることはない。

だが、京都大学広報によれば、

物質の正式名称は「altered generation of neuron」といい、あくまで頭文字を取って命名したという(ALGERNON)。「『アルジャーノンに花束を』は、研究グループも知っていると思うが、特別なぞらえたわけではない」(広報課)

とのことだ。

頭文字をとったというけど、綴りをよくよく確認すると、

ALtered GEneRation of NeurON"

のように、頭文字じゃない部分も含んでいるのでちょっと無理がある気がする。

Backronymとは

ちなみにこのALGERNONのネーミングのように、単語の頭文字を組み合わせて新たな名前を作ることをbackronym(バクロニム)という*2。アメリカ人はとにかくこのbackryonymが大好きで、法律の名前などによく用いられている。

例えば”USA PATRIOT Act”という法律があるのだが、直訳すれば「アメリカ愛国者法」となるのだろうけど、この法律の正式名称は

Uniting and Strengthening America by Providing Appropriate Tools Required to Intercept and Obstruct Terrorism Act of 2001 ”

という長ったらしいもので、日本語に訳すと「2001年のテロリズムの阻止と回避のために必要な適切な手段を提供することによりアメリカを統合し強化するための法律」となる。長ったらしいので頭文字をとって”USA PATRIOT Act”と呼称しているのだ。

と、ここまでが前置きで。この記事ではアルジャーノンだけではない、医学・生物学界のユニークなネーミングを紹介したい。

ポケモン(POKEMON)

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POKEMONは2005年に発見されたプロト癌遺伝子。正式名称をPOK赤血球系・骨髄球性幼若化因子(POK Erythroid, Myeloid ONtogenic factor)と言い、backronymからPOKEMONと名付けられた*3

ポケモンが発がんに関与するという発見に対して、風評被害を恐れたPokémon USAから訴訟をちらつかされたため、後にZbtb7と改名された

http://www.nature.com/nature/journal/v433/n7023/full/nature03203.html

ピカチュリン(Pikachurin)

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ピカチュリン(Pikachurin)は視覚の神経伝達に関与する細胞外マトリックスタンパク質、もしくはこれをコードする遺伝子。2008年、大阪バイオサイエンス研究所の古川貴久らの研究チームにより報告された。生物の動体視力に関与していると考えられており、ゲーム『ポケットモンスター』に登場するキャラクターである「ピカチュウ」にちなんで命名された*4

http://www.nature.com/neuro/journal/v11/n8/full/nn.2160.html

ソニック・ヘッジホッグ(Sonic hedgehog)

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これは超有名どころ。もともとヘッジホッグ遺伝子 (hh) はショウジョウバエ の胚の分節パターンをコントロールする遺伝子として同定された。その後の研究で哺乳類に3種の相同遺伝子があり、そのうちの一つがセガメガドライブのゲームキャラクタであるソニック・ザ・ヘッジホッグにちなんで「ソニック・ヘッジホッグ(Sonic hedgehog, SHH)」と命名された*5

http://www.cell.com/cell/fulltext/0092-8674(93)90627-3

サウザー(Myo31DFsouther)

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サウザーは「北斗の拳」に登場するキャラクターで、心臓の位置と秘孔の位置が通常と左右表裏逆という特異体質の持ち主として知られる。そんなサウザーにちなんで名付けられたのが、ショウジョウバエの内臓の左右が逆転する「サウザー(souther)突然変異体」である。

超一流科学誌のNatureに論文発表されているが、論文のどこにも”サウザー”の命名の由来は書かれていなかった。北斗の拳は流石にポケモンやソニックほどの世界的知名度がなかったということだろうか。

http://www.nature.com/nature/journal/v440/n7085/full/nature04625.html

ショウジョウバエの中,後腸が鏡像対称を示すsouther突然変異体の解析 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター

さいごに

紙幅の関係でこれで終わりにするけれども、他にも面白いネーミングの遺伝子やたんぱく質はたくさんあるので、興味を持たれた方はWikipediaのこちらのページを読んでみてください(英語)。

List of unusual biological names - Wikipedia

では