書評:「型破り マラソン攻略法」

さて

先日の静岡マラソンが無念の途中棄権に終わり。来年度のレースに向けて、最もモチベーションが高まっている今のうちから準備を始めようと、まずは理論武装を固めるべく買ってきたのが岩本能史氏の「型破り マラソン攻略法」だ。

静岡マラソンについての詳細はこちら記事をご参照ください。

2015年静岡マラソンを振り返るー完結編 - Noblesse Oblige 2nd

新書ということもあって、土日で一気に読み切ってしまった。内容を今後のトレーニングに活かしていくべく、書評ブログ(という名のまとめ)を書く次第。

注:すごく長いです

非常識なマラソンメソッドとは

著者の岩本能史氏の「非常識」なマラソンメソッドとして本書に挙げられているのは以下の7項目

  • マラソンは食べるスポーツである
  • 膝が痛い人は薄底のランニングシューズを試してみる
  • 30キロ走のトレーニングを過信してはいけない
  • カーボローディングを無理に行わない
  • 速くなるのにLSD(Long Slow Distance)トレーニングは逆効果
  • ランナーにストレッチは不要である
  • 「峠走」と「15キロのビルドアップ走」で速くなれる

自分は今までにマラソンやランニングについて理論的な学習はしたことが無かったので、「マラソンの常識」が頭の中に無いから、正直これが非常識な考え方という感じは受けなかった。「30キロ走」とか聞いたこともなかったし。

カーボローディングや、LSDについては、学生時代にクロスカントリースキーをやっていたもんで、当時主流の考え方だったから積極的に取り入れていたな。LSDは無理せず長距離を走るので、なんとなく練習量を稼げる気がするけど、岩本氏曰く、レースを速く走るためには不要とのことだ。

以下に一項目ずつ取り上げていきたい。

マラソンは食べるスポーツである

岩本氏が妻の初マラソンに伴走するためにホノルルマラソンに出場した時のこと。妻の予想タイムは6時間。前年の大会で3時間でゴールしていたという岩本氏は余裕と高をくくっていたが、豈図らんやレース半ばで疲労感に襲われて足が止まりそうになった。その苦しいさなかに、コース上に落ちていたエナジーバーを発見、拾って食べたところ急に力が涌いてきて完走することが出来たとのこと。

3時間以内で走るトップ選手のマラソンと、5〜6時間かかる市民ランナーのマラソンは、42.195キロという距離が同じでもまったく別の種目。市民ランナーにとって、マラソンは食べるスポーツである。 (P22)

これは自分にも経験があるのだけど、今年の静岡マラソンでは20キロを超えた辺りから空腹感が襲ってきて、ペースダウンしたのだった。遅いランナーほど走る時間が長いのだから、途中で補食が必要なのは納得。

膝が痛い人は薄底のランニングシューズを試してみる

岩本氏が薄底のランニングシューズを勧める理由。

ランニングでは、地面を強く押したときの地面からの反作用を前方への推進力に変えています。底が厚くてクッション性が高いふわふわのシューズでは、着地したときに底が推進力を吸収してしまって、地面を強く押せませんし、地面からの反作用も吸収されてしまいます。 (P37)


前足部とかかと部の高低差をドロップと呼びますが、厚底シューズではドロップが10〜12ミリほどもあり、かかとの部分が非常に分厚くなっています。
かかとの部分が厚いと、どうしても体の前でかかとから地面に着きやすくなります。(中略)かかとを体の前で地面に着くとブレーキになります。1歩ごとにブレーキがかかるようでは速く走れませんし、膝にも大きなショックが加わります。 (P38)


加えて、ソールが厚くてドロップが10〜12ミリもあると、路面と足裏の間の距離が広がり、安定性が低下します。スニーカーよりハイヒールのほうが捻挫しやすいように、足元が不安定だと足首や膝への負担も増えます。 (P39)

厚底のシューズは地面からの反作用が活かせない、踵から着地してしまうためブレーキを生じる、安定性が低下し関節への負担が増えるとの主張。

そう言えば近年、ドロップの少ない(フラットな)シューズが流行っている気がするのはそういうことかと納得。

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30キロ走のトレーニングを過信してはいけない

「30キロ走」ってのは今回初めて知ったのだが、フルマラソンを走ろうとするランナーは本番前に必ずやるみたい。

事前にフルマラソンと同じ42.195キロをレースペースで走りきるのはさすがに大変そうだけど、30キロまで走っておけば安心できる・・・。30キロ走を行うランナーの多くはそんなことを言います。 (P40)


僕が考えるには、フルマラソンをスタートしてから30キロまではA地点からB地点までの単なる「移動」。そこから本当のレースが始まります。30キロ走は移動のシュミレーションをしているようなものなので、あえて行う必要はないのです。 (P41)


30キロの壁を越えたいなら、30キロすぎの無酸素運動に耐える能力を高めることが必要になります。糖質をエネルギーとして代謝すると、乳酸という物質が増えてきます。この乳酸を代謝してエネルギーに変える能力を高めるのです。 (P45)

30キロ以降の無酸素運動に耐える能力を鍛えるために岩本氏が推奨しているのが「峠走」と「15キロビルドアップ走」だ。これについては後述。

カーボローディングを無理に行わない

カーボローディングは結構有名だけど、レース中のグリコーゲンの枯渇を防ぐために、レース前に炭水化物を集中的にとる方法のこと。日本人はもともと栄養素の多くを炭水化物から摂っているので、カーボローディングは不要と岩本氏は述べている。

これまでのままでいいのに、カーボローディングのために糖質の摂取を無理に増やしていくとグリコーゲンではなく私室が増えて太りもします。普通の食事をしていれば、肝臓と筋肉のグリコーゲンのタンクは満杯になっています。そこへ余計な糖質が入ってくると脂肪細胞に中性脂肪として蓄えるしかなくなるのです。 (P48)

速くなるのにLSD(Long Slow Distance)トレーニングは逆効果

LSDを日本に広めたのは、コーチの佐々木功氏。

佐々木さんは「ゆっくり走れば速くなる」というコンセプトで、「サブ3」を狙うようなエリートランナーにも1キロ7分半から8分というスローペースでのLSDトレーニングをすすめたのです。 (P51)

岩本氏曰く、エリートランナーが普段とは違う練習を試みることで伸び代を見いだすメリットはあるが、市民ランナーでは多くの人が実際には1キロ6分くらいのペースで走ってしまっていて、意味がないと説いている。

しかし一方で、

LSDのようにゆっくりと走ることが必要なランナーがいるとしたら、それは初心者ランナーや休養明けのランナーたちです。彼らは速いペースで走れませんが、LSDのように超スローペースで走っているとランニングしようの体に変身できます。これを僕は「ランナー体質」と呼んでいます。 (P52)

自分はまずは減量が必要なので、「ランナー体質」になるまではLSDをやるのがよさそうだ。

ランナーにストレッチは不要である

ストレッチがなぜ不要なのかを理解するには、岩本氏の提唱する「ラン反射」という概念を理解する必要がある。

筋肉は急に伸ばされると反射的に縮もうとします。なぜなら急に伸ばされると切れてしまう恐れがあるからです。切れるのを防ぐために備わった反射機能ですが、スポーツはそれを上手に利用しています。 (P54)


マラソンは着地時の素早い反射の連続により、できるだけ力を使わないで走るスポーツ。これを僕は「ラン反射」と名付けています。 (P51)


ところが、静的ストレッチはこの肝心の「伸張反射」にストップをかけてしまいます。これでは走力が伸びるわけがありません。 (P55)

ランニング前に静的ストレッチを行うことで、伸張反射が起こらなくなり、結果として「ラン反射」を活かした走りが出来なくなってしまうという。

では、一切のストレッチが不要かというとそういうことではなくて、岩本氏は「動的ストレッチ」をするのはよいと述べている。

ポイント練習の前に行うとしたら、静的なストレッチではなく、動きを良くする動的ストレッチが有効。静的ストレッチとは対照的に、反動を使いながら筋肉と関節をダイナミックに動かすのが特徴です。 (P60)

「峠走」と「15キロのビルドアップ走」で速くなれる

岩本氏はマラソンの練習を2種類にわけている。

マラソンの練習には、頑張って走力を伸ばすポイント練習、疲労を抜きながら『ランナー体質」を維持するつなぎ練習があります。 (P126)

走力を伸ばすためのポイント練習として、岩本氏は「峠走」「15キロのビルドアップ走」を推奨している。聞きなれない言葉だ。

峠走とは

峠走は主に神奈川県と静岡県の県境にある足柄峠で実施します。往路13キロを歩かずにひたすら上り、頂上に着いたら休まないでUターン。往路13キロをひたすら下ります。往復26キロのポイント練習です。 (P130)


ランニングは複雑系のスポーツであり、多彩な体力の総合格闘技ですが、なかでも4つの要素がパフォーマンスを大きく左右しています。具体的には、①推進力、②心肺機能、③素早い動き(フォーム)、④着地筋の4つです。 (P130)

峠走の練習をすることで、ランニングに必要な4つの要素をバランスよく鍛えることが出来るとのこと。

足柄峠には流石になかなか行くことが出来ないが、身近な場所で練習に適した峠を見つけろと岩本氏は説いている。

実際、最近沖縄に引っ越した岩本氏は、近所に練習に適した峠を見つけたとのことだ。

自分の場合だと、日本平へ上る道があるので、そこが良いんじゃないかなと思っている。実際、毎年春にはそこで「日本平桜マラソン」という大会が開催されているし*1

桜マラソンコース図

15キロビルドアップ走とは

15キロビルドアップ走は、5キロごとにペースを上げるビルドアップ走。 (P126)


レース本番の10日前に1周目の5キロはレースペースから始め、2周目の5キロはレースペースから1分短縮、3周目の5キロは1分半短縮します。これがクリアできたら、設定したレースペースで本番を走ることができます。 (P126)

最初の5キロはウォーミングアップ、2周目は実際のマラソンで言う中盤から30キロ地点までのシミュレーション、最後の5キロは30キロ以降の無酸素運動領域のシミュレーションになっているという。なかなかきつそうな練習だ。

まとめ

その他にも、本書では具体的なフォームの指導とか、レース前から当日にかけてのマネジメントについてのアドバイスが豊富に述べられている。ただ、フォームのところとかは、やっぱり言葉だけだと伝わりにくいので、図解がもう少しあると良かったかなと思う。

自分はマラソン経験はまだまだだし初心者ランナーだから、正直ピンと来ないことも多かったけど、中・上級者には参考になることが多いのではないかと思った。

伸び悩んでいる中・上級者には、伸び代を見いだす言いきっかけになるのではないだろうか。

ひとまずは減量のためのLSDから始めてみよう。

では

*1:来年は出ようかな?