ノーベル医学賞:イベルメクチンと疥癬と川奈ゴルフ場
さて
昨日のブログ記事でドヤ顔でノーベル医学賞の受賞者予想をしましたが、見事に外れました。今年のノーベル医学・生理学賞は北里大学特別栄誉教授の大村智さんに授与されることが発表されました。おめでとうございます。
受賞理由について、NHKのサイトから引用させて頂きます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151005/k10010259391000.htmlwww3.nhk.or.jp
大村さんは、これまで微生物由来の有機化合物を多数発見し、薬学研究の分野で優れた業績を上げました。
そして、寄生虫によって引き起こされるオンコセルカ症やリンパ性フィラリアなどの発生を劇的に抑えることができる「イベルメクチン」のもととなる「エバーメクチン」など、数々の抗生物質を発見しました。
記事中にあるオンコセルカ症やフィラリアに対してイベルメクチンが使用されることは少なくとも現代日本ではほとんどないことと思われます。
現代日本でイベルメクチンが一番多く投与されている対象疾患はおそらく「疥癬」でしょう。そこで、本稿ではイベルメクチンと疥癬について述べてみたいと思います。
一部閲覧注意画像を含みます、ご容赦下さい。
疥癬とは
疥癬はヒトヒゼンダニが人の皮膚に寄生して起きる病気です。主な症状は猛烈なかゆみで、湿疹などと誤診され長く不適切な治療を施されている場合も多いようです。老人病院などで集団感染が起こることがあり、問題になっています。
ヒゼンダニは人の皮膚の角層とよばれる部分(もっとも表面の部分)に寄生し、角層の中を移動しながら卵を産み付けていきます。卵は3−4日で孵化して10−14日で成虫となります。
患者との直接的な接触や、患者のフケや垢を介して伝染していきます。
疥癬の診断はヒゼンダニを皮膚から検出することで可能ですが、ヒゼンダニは雌で0.4 mm、雄はその2/3と非常に小さく肉眼では見ることができません。実際には顕微鏡や拡大鏡を用いてヒゼンダニを検出して診断されています。
参考サイト:疥癬(かいせん) | 皮膚科学関連医療薬品のマルホ
疥癬の治療:イベルメクチンがもたらしたこと
疥癬の治療は従来殺虫成分を含む薬剤を全身に塗りたくる外用治療が主体でした。しかし、容易に想像できる通り全身にくまなく薬を塗るのはなかなか難しく、治療効果や安全性に問題がありました。
2006年8月に、イベルメクチン(ストロメクトール)が疥癬に投与できるようになり、疥癬の治療に劇的な変化がもたらされました。
イベルメクチンはヒゼンダニの成虫にしか効果がないため、イベルメクチンを投与されてもその時点で孵化していない卵がそのまま残ってしまいます。残された卵が孵化するタイミング(具体的には1回目の投与から1−2週後)に2回目の投与をすることで疥癬の治療が行われます。
従来の外用薬による治療に比べて有効かつ簡便な治療法と言えます。
エバーメクチンと川奈ゴルフ場
上に示したのはノーベル賞のプレスリリースに添付された画像ですが、よく見ると奥のほうに富士山、それに続くフェアウエイと手前にはゴルフボールが見えます。
実はエバーメクチンは川奈ゴルフ場近くの土壌から採取された菌から発見されたのです。
大村博士はいつもビニールの子袋を持参し、土壌を採取しては研究室で分析していた。1975年、大村博士は静岡県伊東市川奈のゴルフ場近くで採取した土壌の中から、新種の放線菌を発見してメルク社に送った。メルク社は、多様な化学物質を産生していることから動物の寄生虫に効くのではないかとにらんで実験を続けると、果たせるかな家畜動物の寄生虫の退治に劇的な効果を発揮することが分かる。
この化学物質はエバーメクチンと名付けられ、その後、実験を重ねる過程で化学的に改良されてイベルメクチンという名前になる。
自分はゴルフを全くやらないのでよく分かりませんが、川奈ゴルフ場は名門ゴルフコースとして知られているようですね。
今後はゴルフをプレイしながら「ここからノーベル賞が生まれた」なんて会話がなされるようになるでしょう。
大村智さんの賞金はおよそ2886万円
ところで、今回のノーベル医学賞は大村智さんの他にアイルランド出身のウイリアム・キャンベル氏、それに中国の研究者、屠ユウユウ氏が共同受賞となっています。
日本語の報道ではあまり触れられていないようですが、(下世話な話で恐縮ですが)3人の賞金の取り分は1/3ずつではなく、大村智さんとウィリアム・キャンベル氏に1/4ずつ、屠ユウユウ氏に1/2となっています。
The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2015 was divided, one half jointly to William C. Campbell and Satoshi Ōmura "for their discoveries concerning a novel therapy against infections caused by roundworm parasites" and the other half to Youyou Tu "for her discoveries concerning a novel therapy against Malaria".
大村智さんとキャンベル氏が「寄生虫によって引き起こされる感染症の治療の開発」、屠氏が「マラリアの新規治療法に関する発見」に対してノーベル医学賞を授与されており、各研究テーマごとに1/2した賞金を大村さんとキャンベル氏でさらに半分ずつ(つまり1/4)授与されたと言う計算だと思われます。
ノーベル賞の賞金は800万スウェーデン・クローナ(SEK)と定められており、こちらのデータによれば1SEK = 14.42998 JPY (Oct 05,2015 18:59 UTC現在)とのことですので、賞金総額は
1億1544万円
となり、大村智さんに授与される賞金の額は、
1億1544万円/4 = 2886万円
となります。ちなみにノーベル賞の賞金には所得税はかからないようです。
さいごに
駆け足でノーベル医学賞を受賞された大村智さんの業績についてまとめました。
最後に改めまして大村智さんのノーベル賞受賞をお祝いさせて頂くとともに、今後の益々のご健勝をお祈り申し上げます。
では