透析患者は殺せと言う長谷川豊の暴論にデータに基づいて反論してみる

さて

昨日は元フジテレビアナウンサー、現炎上芸人の長谷川豊がBLOGSにアップした記事が炎上していました。

リンクは魚拓
【魚拓】自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!(長谷川豊) 【魚拓】自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!(長谷川豊) このエントリーをはてなブックマークに追加

記事自体は読む価値がないのでこちらで要約させていただけば、

人工透析患者は自業自得、殺せ!

という酷い内容です。

元テレビアナウンサーとは思えない稚拙な論考で根拠となるデータも一切ないという論ずるに値しない記事ですが、念のためしっかりとしたデータに基づいて反論をしてみたいと思います。

日本における慢性透析患者の現況

日本における慢性透析患者の現況について、一番信頼のおけるソースとして日本透析医学会が公開しているデータを御紹介していきます。

日本透析医学会ホームページ:わが国の慢性透析医療の現況 −目次−

日本において慢性透析療法を受けている患者の数は2014年末時点で320,448人、人口100万人あたり2,517.3人という数字です。患者数の集計が始まった1968年からこの数字は伸び続けているようです*1

新たに人工透析が導入される患者数は約38000人/年、透析患者の死亡数は約30700人/年で、この数字は2011年以降ほぼ一定しています*2

透析患者数の増加に伴い、人工腎臓の台数も延び続けており、2014年末時点で日本全国に131,555台あるとのこと*3

透析導入の原疾患別割合

透析を開始するのは腎臓の機能が不可逆的に低下してしまうためですが、その原因となる病気は様々あります。新たに透析導入に至った原因別の集計結果は以下のようになっています。

順位 原疾患 患者数(人) 割合(%)
1 糖尿病性腎症 15,809 43.5
2 慢性糸球体腎炎 6,466 17.8
3 腎硬化症 5,151 14.2

糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、腎硬化症の上位3疾患で全体の7割を占めています。

長谷川豊のブログ記事には、「あるお医者さんの話」として

しかし、私の見立てでは…8~9割ほどの患者さんの場合「自業自得」の食生活と生活習慣が原因と言わざるを得ません

と書かれていますが、実際には糖尿病から人工透析になる患者さんは全体の4割強に過ぎません。いったいどこの「お医者さん」の話を聞いてきたんだか。

糖尿病性腎症で透析導入になる患者は数年前までは増加の一途だったもののここ数年は横ばい、その一方で高齢化を反映して腎硬化症による透析導入が増えているとのこと。そして慢性糸球体腎炎による透析導入は減少しつづけており、数年のうちに腎硬化症が第二位に浮上しそうです*4

透析患者総数の原疾患別割合

前項のデータは新たに透析を開始した人数の集計でしたが、2014年末時点での患者総数の原疾患別割合は以下のようになっています。

順位 原疾患 患者数(人) 割合(%)
1 糖尿病性腎症 118,081 38.1
2 慢性糸球体腎炎 96,970 31.3
3 腎硬化症 28,298 9.1

患者総数ベースで行くと、糖尿病が原因になっているのは全体の4割以下ですね。上位3疾患の顔ぶれは変わらず、これらの疾患で全体の8割を占めています。

透析患者の生存率は

慢性透析患者の透析開始後の生存率はおおむね以下のようになっています。

生存率%
1年生存率 90%
5年生存率 60%
10年生存率 36%

1年生存率とは1年後に生存している患者数の割合です。1年生存率90%とは、裏を返せば透析を始めて1年以内に10%の患者が亡くなると言う意味です。5年生存率は60%、5年で4割の患者が亡くなると言うなかなかシビアな数値だと思います。

日本の医療費総額と透析にかかる医療費

*5厚生労働省が2015年9月に発表した資料*6によれば、2014年度の日本の医療費の総額は40兆円、国民1人当りにして31.4万円となっています。わが国の医療費はここ十数年膨張し続けており、この年度に初めて40兆円の大台に乗りました。

一方で慢性透析療法に関わる医療費については総額を具体的に示したデータはみつけられませんでしたが、慢性透析患者1人当りの医療費が年に500万円と謂われていることから概算すると約1.6兆円。総人口の0.25%相当の患者のための透析医療費が医療費総額の実に4%を占めている計算になります。

糖尿病には1型と2型がある

厚生労働省が実施した2014年の患者調査の概況によれば、糖尿病の患者数は316万6千人で過去最高の数字。ざっと国民の5人に1人以上が糖尿病で、*7予備軍を含めればさらに患者数は多いと思われます。

糖尿病には1型と2型があり、前者は自己免疫などの機序でインスリンを作るすい臓のβ細胞が破壊されてしまうタイプ。後者はインスリンの分泌量が不足している、またはインスリンの作用が充分でない(インスリン抵抗性)ために生じるタイプです*8

長谷川豊が批判しているような「自業自得」で悪化するタイプの糖尿病は2型のほうですね。糖尿病患者のうち90%以上が2型糖尿病です。

まったく普通の生活を送っていたのにある日突然1型糖尿病を発症し、真面目に治療に取り組んでも(1型糖尿病の場合はインスリン注射が必須です)やむなく透析導入に至ったと言う患者さんも多くいることでしょう。そう言った患者さんが糖尿病を十羽一絡げに自己責任論で語る長谷川豊の暴論を見聞きして大いに傷つけられるのは哀しいものがあります。

糖尿病で透析になるのは自業自得なのか

先に述べたように、透析患者の8-9割が自業自得という意見は流石に間違いですが、確かに長谷川豊の言う通り「自業自得」の食生活と生活習慣が原因で人工透析導入に至るケースがあることも真実でしょう。自業自得のケースがどれくらいの割合でいるかはデータをみつけられませんでしたが、そう言った患者は医療従事者の指導や指示に従わないことが多く、絶対数は少なくても目に付きやすいと言う面は否めません。

長谷川豊が話を聞いたと言う透析担当医もおそらく糖尿病で透析になった患者の対応でなんらか嫌な思いをしたのでしょう。それが拡大解釈されて「患者の8ー9割が自業自得」という極論に至ったのではないでしょうか。

国民皆保険制度について

長谷川豊は記事中で

年金システムと保険のシステムを考えたバカ、全員死んじまえ!

と妄言を吐いていますが。

日本では国民皆保険制度と言って全国民が健康保険に加入し、低額の医療費負担で自由に医療サービスにアクセスできる仕組みになっています。この制度がいかに素晴らしいものであるかはジャーナリストの堤未果さんの著作を御一読頂きたいところ。

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日本の国民皆保険制度に嫉妬したオバマ大統領がアメリカの医療保険制度改革に取り組み、いわゆるオバマケア法を成立させたのが2010年3月の事。長谷川豊は当時まだフジテレビの社員でとくダネ!にも出演していた筈で、おそらく当時のニュースでも扱ったんじゃないでしょうか。

それでいてこういうことを言うのは不勉強と言わざるを得ません。

さいごに

日本国憲法第25条には以下の規定があります。

  1. すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

いわゆる生存権を規定した条文になります。

長谷川豊の「透析患者は死ね」という暴言は憲法25条に違反しているのではないでしょうか。

大衆の耳目を集めるために逆張り炎上を仕掛け続けなくてはならないレールを外れたフリーランスの末路は悲惨ですね。

長くなりましたがこれで本稿を〆ることにします。

では