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妻が帰ってこない。2016冬

「独りの時間が欲しいとおっしゃっていたではないですか」

そう言って娘を連れて妻が実家に帰ったのが先々週末の事。表向きは育児疲れを癒すためと、老祖父母に孫との触れ合いの時間を作りたいという事だったようだが、単に僕との暮らしに疲れてしまったせいではないかと勘ぐってしまう。世にイクメンという言葉があり、自分もそれを自称しているから人並み以上に育児には参加してきたつもりだったが妻には不満が募っていたのだろうか。

娘が生まれてからの半年間、毎日毎晩専属オムツ替え係兼専属入浴係兼専属保湿クリーム塗り係兼専属耳鼻掃除係として娘の面倒を見てきた僕である。合言葉は「母乳を出す以外男にできない事はない」だったのだが、そんな献身的に育児参加していた僕に対していったい何が不満だったのか、僕には分からない。いや、何が不満か分かってもらえない事自体が不満だったのかも知れない。

しかしいくら僕が頑張って育児参加していると言っても日中は仕事で家を空けてしまうわけで、その間の育児バードンは妻が一身に担っていたわけだ。そうした事情も鑑みて僕は妻を快く実家へ送り届けたのだった。

妻が帰省してから、5年ぶりの一人暮らしを思う存分満喫しようと映画を観に行ったりネットフリックスで動画を見まくったり身体に悪そうなラーメンをたらふく食べたりと思いつく限りの悪行非道を愉しんでいたのだが、それもものの数日で飽きてしまった。

2週目に入ってからは独りで家にいる事に耐えられなくなってきた。大学生の頃から妻と結婚するまでの10年超をひとりで暮らしてきた自分だったが、その時には一切寂しさは感じなかった。3人だったのが独りになる喪失の悲しみ。

僕は友達がいない。

思えば妻が帰省して4日目の夜、「(義母と)喧嘩したからもう帰りたい、迎えに来て」とメッセージが来たのだった。その時が最大のチャンスだったのだが、僕にはついつい週末に観に行く予定だった映画「クリード」のほうが重要に思えてしまい、「2週間の予定だったのだから我慢しなさい」と返答してしまった。「来週末には迎えに行くから」と。

そして妻子を迎えに行くはずだった先週末。御存知の通り日本列島を襲った大寒波のせいで、北関東にある妻の実家周辺は雪と氷に埋もれてしまった。僕の車は2輪駆動ノーマルタイヤ仕様でとてもじゃないが雪道の走行には適していない。「家の前の道が凍っているから迎えに来るのは無理」そう妻に言われた時のショックたるや。きっつー。

実家が厳冬期には雪に閉ざされて身動きが取れなくなる事を見越して、僕からフェイドアウトするために敢えてこの季節に帰省したのではないか、などとゲスの勘ぐりはすべっきーではないのかも知れないがついつい頭をよぎってしまう。

僕の惨状をさすがに哀れんだのか、スカイプで妻子と話をする許可が与えられた。2週間ぶりに画面越しではあるが娘の動く姿を見た時、僕はあふれ出る涙を留める事ができなかった。映画「インターステラー」のマシュー・マコノヒーばりに人目も憚らず、憚る人目もないのだが、嗚咽していた。

娘の手前、いつまでも泣いているわけにもいかない。必死に涙を抑え、画面の向こうの娘に笑いかける。娘も画面の向こうでキャッキャと笑っている。妻のパソコンの画面に映っているのは父である僕のスカイプ動画なのか、それとも子供向けのYouTube動画なのか、あるいはパソコンの画面の手前側で義祖父母が娘をあやしているのか、それは誰にも分からない。知る術もない。

20分ほどのスカイプが終わり娘を映した動画が閉ざされた時、絶望的な孤独が一気に押し寄せてきて僕の心を踏みつぶした。


僕は友達がいない。


友達がいないならば作ればいいじゃない。

そう思いついた僕は妻が置いていったなけなしのお小遣いを握りしめ、駅近くのビルの中にあるその店を目指したのだった。妻から貰ったお小遣いで友達を買うのは罪悪感を覚えてしまうけれども、そもそもこの金を稼いできたのは他ならぬ僕だ。僕が稼いだ金で僕が何を買おうと自由ではないか?

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店に入る。ガラス越しに上目遣いで僕を見上げる様々な姿形の友達たち。おのおの自分が一番美しく見えるポーズを決めて、買ってもらうのを待っている。胸の高鳴りを感じる。このコもあのコも良さそうだなぁ。

暇そうにしていた店員に「実は初めてなんです」と告げると丁寧に色々と教えてくれた。迷いに迷った揚げ句、中でも一番肌が白くて従順そうな友達を買う事にした。

「ゆっくり時間をかけて愉しんで下さいね」

そう言って店員はにっこり微笑んだ。

妻から貰った小遣いで友達を買うとは自分も地に墮ちたものだと思ったけれども、それもこれも僕に寂しい思いを強いているアナと雪の女王もとい大寒波冬将軍のせいだ。何でも人のせいにするのは僕の悪いところだ。妻が愛想を尽かすのも無理はない。

なにはともあれ僕は部屋に閉じこもり、思う存分愉しむ事にした。初めての事なので勝手が分からないかという危惧があったが、書面の指示に従い、また店員が勧めてくれた器具を使って滞りなく事は進んだ。

友達の白く美しい手足や胴体をためつすがめつ眺めながら、角度を決めて深く奥までしっかりとハメ込んだ(そのように指示された)。ハメ込んだ時の具合がちょうど良くて、これは気持ちいい。この友達は良くできている。

店員の指示通りゆっくり時間をかけて愉しもうと思っていたのだが、初めての事だったのでペース配分がうまくできず、途中休憩をはさんだものの1時間半ほどで達してしまった。普段スピーディーな自分としては頑張った方だ。自分で自分を褒めてあげたい。










というわけで、僕の友達を紹介しよう。



















僕は友達がいない。

妻よ、早く帰ってきておくれ。


ちなみに静岡ホビースクエアで買いました。ガンプラを始め多種多様のプラモデルやモデラーの作品の展示販売があります。

では