NEWS小山慶一郎さんとノーベル賞梶田教授のやり取りについて
さて
今日はこのニュースにもやもやしたので取り上げたい。
ノーベル賞受賞の梶田隆章教授、NEWS小山慶一郎に「意味が分からない」 (2015年10月8日掲載) - ライブドアニュース「研究が何の役に立つのか」ってのは一般大衆からすればFAQなわけで、梶田先生も事前に回答を用意しておくべきだった。てか、事業仕分けで予算削減された教訓は活かされていないのか。
2015/10/08 11:42
7日の「news every.」に、ノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏が出演した
司会の小山慶一郎に、研究をどのように活かしていきたいかと聞かれた梶田氏
「申し訳ない。意味がわからないんですけども」と恐縮した様子で答えていた
上に引用した自分のはてブコメントが言いたいことの全てなんだけど、この件についてもう少し詳しく検証したい。
番組内でのやり取り
日本テレビ系の報道番組、「news every.」での、司会のジャニーズの小山慶一郎さんと梶田隆章教授のやり取りが話題になっている。
ライブドアニュースの記事を元に、番組内での小山さんと梶田教授のやり取りを再現してみる(自分は放送は見ていません)。
小山:今後ご自身の研究をどのように活かしていかれたいと思われていますか?
梶田教授:え? どういう意味ですか?
小山:今後ご自身の研究をどのように活かしていかれたいと思われていますか?
梶田教授:活かしていくというと…ちょっと、申し訳ない。意味がわからないんですけども
小山:どのように、こう、役立てていくということになるんでしょうかね?
藤井貴彦アナ:基礎研究ですと難しいと思うのですが…(とフォロー)
梶田教授:役立たない……ぐらいに思っていたほうがよろしいんじゃないでしょうか
このあと次の質問にうつっていったとのことだ。梶田教授は忸怩たる思いを抱えたのではないかと斟酌する。
「研究が何の役に立つのか」はFAQ
しかし自分がもやもやしたのは、決して質問をした司会者の小山慶一郎さんに対してではない。その質問に充分な回答ができなかった梶田教授に対してである。
一部には質問をした小山さんを責めるコメントも見られたけど、ニュースショー番組の司会者として、一般視聴者が知りたがっていることを質問するのは至極当然のことと思う。
先端科学技術の研究はそれ自体が一般大衆には分かりにくい未知の領域であり、さらにそれが基礎科学の研究テーマともなればわれわれ一般大衆は内容について想像のしようもない。
そうなると最もナイーブな質問として「それって何の役に立つの?」というのは、誰しもが訊ねたくなってしまうFAQ(Frequently Asked Question)と言えるのではないか。
NHKではなく民法の、一般視聴者向けのニュースショーに出演するのであれば、それは想定質問の一つとして事前に答えを用意しておくべきだったと思うのだ。
事業仕分けでの予算削減
話は変わるが梶田教授のノーベル賞受賞を受け、受賞対象となったニュートリノ研究の研究施設、「スーパーカミオカンデ」がかつて民主党政権時代に「事業仕分け」の対象となり予算が削減されていたことが話題になっている。
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/whatsnew/new-20091127.htmlwww-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp
少し長くなるが、スーパーカミオカンデの実験代表者、鈴木洋一郎氏の当時の文章を引用する。
予算の縮減により、観測が短期間でも止まるようなことになれば、10年から20年に一度しかない超新星からのニュートリノの検出を逃してしまう可能性もあります。また、予算の縮減により、測定器の質を維持することができなくなる可能性もあります。これまで、10年以上かかって、世界のトップになった日本のニュートリノ研究は止まってしまい、継続する研究者も絶えてしまうことでしょう。落ちるのは、早く、瞬く間に科学の2流国、3流国になってしまうでしょう。一度そのようになれば、世界のトップレベルにもどるには、さらに10年、20年とかかることになります。
基礎科学は短期的には、何も役に立たないものと思われるかもしれません。基礎科学は「分からないこと、不思議なことを探索して、真実を知る」ということが本質ですが、何十年か経った後に、思わぬところで役に立つこともあります。80年ほど前に、原子核のふるまいを研究して生まれた量子力学は、今では、半導体の原理を理解するにはなくてはならないものです。アインシュタインの作った一般相対性理論は、90年経って、カーナビゲーションシステムでお馴染みのGPSの基礎を支えています。
スーパーカミオカンデで行っているニュートリノ研究も、今は、物質の成り立ち(素粒子)と宇宙の謎に挑戦していますが、100年後には全く考えもつかなかったものに応用されているかもしれません。皆様の基礎科学研究に対するご理解とご支援を、強くお願いいたします。
2009年11月26日
スーパーカミオカンデ実験代表者 鈴木洋一郎
基礎科学研究への熱い思いがひしひしと伝わってくる。
事業仕分けから得た教訓は
民主党政権による「事業仕分け」は当時から思っていたけど、言わば古代ローマのコロッセウムにおける公開虐殺ショーみたいなもので、白いスーツを身に纏った女剣士が予算を無駄食いしている役人どもをばっさばっさと斬り倒す姿に大衆が熱狂していたに過ぎない。
国家百年の計を持たぬ民主党議員に基礎科学の重要性が分かるはずもなくスーパーカミオカンデの予算も削られてしまったわけだが、その時に梶田教授たちは誰よりも悔しい思いをしたのではないか。
その時に、一般大衆に分かりやすく基礎科学の重要性を伝えることの難しさとその意義を痛感したはずだったのではないか。
科学コミュニケーションの難しさ
先端科学技術を大衆に分かりやすく説明する(科学コミュニケーションと言う)のは確かに難しい。しかしそれもまた科学者達の使命の一つと言えよう。
2012年にノーベル医学賞を受賞した山中伸弥先生はそのあたりの科学コミュニケーション技術に長けている印象がある。もともと整形外科の臨床医であった経験が活きているのではないかと推察する。
今回の梶田教授の場合は、確かにノーベル賞受賞の知らせを受けてろくに準備をする間もなく番組出演に応じたので、不利な状況だったとも言える。
一流の科学者は研究だけに専念していればいいと言う意見もあるかもしれない。それはごもっともな意見だけど、ならば周りの広報担当者などが適切なアドバイスをしておくべきだったと思うのだ。
科学知識啓蒙の場としての日本科学未来館
科学コミュニケーションについては、日本科学未来館と言う施設がお台場にあり*1、そこには多数の科学コミュニケーターが勤務されている。
科学者や技術者と一般の方々をつなげるのが科学コミュニケーターの役割です。科学を解説したり、研究の面白さを伝えたりするだけでなく、一般の方の疑問や期待を研究者に伝えることで、科学と社会の間に双方向のコミュニケーションを生みだします。
http://www.miraikan.jst.go.jp/online/communication/work.html
彼らの地道な活動が日本国民の科学知識の底上げに繋がっている。ここで科学に興味を持ったこども達の中から、未来のノーベル賞学者が生まれるかもしれない。
科学コミュニケーターのブログも参照されたし。ノーベル賞の解説記事は必読。
2015年ノーベル物理学賞発表!「ニュートリノ振動の発見」で梶田隆章博士ら | 科学コミュニケーターブログ
ノーベル賞受賞者v.s.マスコミの戦い
ここ数日でノーベル賞学者とマスコミが無益な戦い(マスコミが一方的に迷惑をかけている)をしている事例が目に付いた。ここでいくつか紹介しておく。
梶田教授v.s.オヅラ
タイトルで不快な気分になり、記事を読んでさらに不快になった。
小倉智昭氏 ノーベル賞受賞の梶田隆章氏を珍質問で困らせ高笑い (2015年10月7日掲載) - ライブドアニュースサイテーだな。梶田先生も機転を利かせて、「スーパーカミオカンデで観測すれば、あなたのヅラの中まではっきり見えます」くらい言ってやればよかった。
2015/10/08 12:22
サイテーだな。梶田先生も機転を利かせて、「スーパーカミオカンデで観測すれば、あなたのヅラの中まではっきり見えます」くらい言ってやればよかった。 - iGCN のブックマーク / はてなブックマーク
放送禁止用語を口走った大村智さん
こちらは、NHKに出演した大村智さん。記事の内容から察するに、おそらく「Kittey Guy」って言っちゃったんだろう。そんなことでいちいち揚げ足を取って、したり顔で記事にするのはヤメロ。
ノーベル賞受賞者の大村智氏、「クローズアップ現代」で放送禁止用語 (2015年10月8日掲載) - ライブドアニュース
ノーベル賞報道に対する堀江貴文さんの見解
堀江貴文氏 ノーベル賞報道に苦言「クソマスコミの悪いところ」 (2015年10月7日掲載) - ライブドアニュース全面的に堀江氏の意見に賛同するが、「つまるところ視聴者のレベルが低い」ってのは違うのでは。研究の詳しい内容を知りたがっている視聴者は多いはず。
2015/10/08 12:44
全面的に堀江氏の意見に賛同するが、「つまるところ視聴者のレベルが低い」ってのは違うのでは。研究の詳しい内容を知りたがっている視聴者は多いはず。 - iGCN のブックマーク / はてなブックマーク
ノーベル賞受賞者の研究内容の紹介をしようとしないマスコミに対する苦言。視聴者のレベルが低いのではなく、マスコミに有能な科学部記者の人材がいないのが問題だと思う。とくに毎日新聞な。
梶田教授にはぜひこう切り返して欲しかった
小山慶一郎さんの質問に対して梶田教授にはぜひこう答えて欲しかった、という私の妄想を最後に紹介して本稿を閉じることにする。
小山:今後ご自身の研究をどのように活かしていかれたいと思われていますか?
梶田教授:その質問は、ファ◦クですね
小山:ファッ◦? え? どういう意味ですか?
梶田教授:エフ、エー、キュー、Frequently Asked Question、よく聞かれる質問ということです。(以下基礎科学研究の重要性を力説)
そして翌日の報道
ノーベル賞受賞の梶田隆章氏 「news every.」で放送禁止用語を口に
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やっぱりマスゴミはマスゴミだな。
では
*1:面白い施設だから一度行くと良い。プラネタリウムがあってデートにもお勧め