シン・ゴジラは庵野秀明監督による日本文化論であり日本讃歌である【ネタバレあり】
さて
ようやく映画「シン・ゴジラ」を劇場で観てきたので、それについて熱く語るとしよう。
総監督・脚本:庵野秀明
出演:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成、塚本晋也、野村萬斎などなどなど
音楽:鷺巣詩郎、伊福部昭
前評判の高さに違わぬ素晴らしい作品だった。
これからネタバレを含む感想について語ろうと思うので、まだ本編を観ていないと言う方はここで引き返して下さい。
念のためブックマークボタンを置いておきます。
東北大震災と原発事故のメタファーとしてのゴジラ
「シン・ゴジラ」観てきた。評判通り素晴らしかった。2時間の上映時間があっという間に感じられた。BGMが予想以上にエヴァだった。庵野秀明監督による日本文化論、日本讃歌と感じた。唐突な片桐はいりには笑った。そして野村萬斎の熱演に感銘を受けた。石原さとみは可愛かったので万事オッケー。
— iGCN (@iGCN) 2016年8月8日
映画「シン・ゴジラ」で庵野秀明監督が描こうとしたのはニッポンそのもの、そして日本人の精神性だったのではないだろうか。冒頭に貼った本作のキャッチコピー「ニッポン対ゴジラ。」は本作の真髄を突いていると言える。
国家存亡の危機が目の前にあるにも関わらずそれに気付かず、あるいは気づかないふりをする事なかれ主義の政府首脳、どこまでも優柔不断でリーダーシップを発揮しない総理大臣、そしてそんな無力な総理を支える優秀な事務官たち。
かれらが対峙するのは放射線を撒き散らし首都東京に迫り来る未知の巨大生物だ。ゴジラが係留された船舶を押し流しながら呑川を遡上してくるシーン、あるいは第一次上陸の被災地を視察するシーンなどを観れば、誰しもが東北大震災の津波の映像や被災地の様子を想起したことだろう。
ゴジラを大震災やそれに続く原発事故のメタファーとして見る向きは多いだろう。政府の対応が後手に回り被害が拡大して行く様や、日本政府のみでは対処不能とみるや介入を試みようとするアメリカ政府の姿は当時の原発事故対応を彷彿とさせる。ポンプ車を使って血液凝固促進剤を注入してゴジラを停止させようとするヤシオリ作戦などは、原発事故時の冷却水注入作業そのものではないか。
庵野秀明監督がどれだけ当時の政治状況を意識して脚本を書いたのかは分からないが、大杉漣演じる大河内総理大臣が右往左往する姿を見て、当時のKAN総理もこんな感じだったのだろうかと想像したら絶望的な気分になった。
だが、たとえトップが無能だとしても現場にいる優秀な若者たちの団結力によって、映画の中でも現実世界でもこの国は救われたのだ。
定期的に首都が壊滅する国に住む日本人のニヒリズムと強さ
日本という国の特徴として首都(江戸/東京)が定期的に徹底的に破壊されるという、おそらく他国に例を見ない特殊性があると思う。
江戸の大火、関東大震災、東京大空襲と、東京壊滅しすぎでは。
— 平田朋義 (@tomo3141592653) 2016年8月8日
東京に関して言えば、関東大震災、東京大空襲とこの100年の間にも2回壊滅的な被害を受けている。東京大空襲は戦災であり繰り返されることはないと信じたいところだが、地震に関して言えばおそらくこの2-30年のうちに大震災が再び東京を襲うであろうことを全国民が認識している筈だ。
日々の生活の中に大震災への怯えを内包している我々はいつしか災厄の恐怖に馴致してしまい、実際に災厄に遭遇しても日常生活を維持することができる比類なき力を身に付けているのではないだろうか。
それを象徴的に示しているなと感じたシーンが、第一次上陸後ゴジラが海へ還って行った次の日のシーンだ。人々が何事もなかったかのように登校、あるいは出勤して日々の暮らしを昨日と変わりなく送る様が描かれていた。
2011年3月11日。自分は帰宅難民となり、新宿区の職場から中野区の家まで1時間半かけて徒歩で帰宅した。だが翌日にはいつも通りに職場に向かい、余震の続く中淡々と業務をこなしたのだった。首都圏に住んでいた多くの方も、翌日普通に出勤したのではないだろうか。
あるいは自衛隊の避難指示に従い、次々とバスに乗り込む市民たちを映したシーンがある。整然と順番を守って並ぶ日本人の姿は他国の人々から見たら異様にすら映るかも知れない。ハリウッド謹製の災害パニック映画であれば、避難民達が我先と他人を押しのけながらバスめがけて突進する様子を描くところだろう。だが自分はこのシーンを観ながら、日本人はきっとこう動くに違いないだろうなと素直に感じた。それは日本人の美徳でもあり強さでもあると思う。
また再建しましょう!
ヤシオリ作戦の成功によりゴジラは凍結された。しかしゴジラの熱線により首都東京は焼き尽くされてしまった。しかもゴジラが眠りから覚めれば1時間以内に熱核攻撃が実行されるという条件付きだ。危機は今後も継続する。
この絶望的な状況の中でも、本作では希望が見出されている。
映画ラストの赤坂内閣官房長官代理(竹野内豊)のセリフが象徴的だ。
「この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。また立ち直れるさ。」
これは庵野秀明監督による、震災復興半ばの東北地方、そして日本国民への応援メッセージと自分は捉えた。
どんな困難に遭っても日本は復興できる、その強さを我々は持っているという日本讃歌だ。
95/100点
では